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超越

夜明け前に目が覚める。そのこと自体、さしてめずらしいことではない。

ほのかに明るさを増してくる空を背景に、庭に植わった大小さまざまな木々は影になって、より克明になった黒を纏う。鳥たちがさえずり、もうすぐ夜が明けることを知らせあっているみたいだ。

かれは体を横たえたまま、腹の位置まで下がっていた掛け布団を、肩の上まで引き上げた。腕、手も掛け布団のなかに収納させた。若干の肌寒さを、かれは感じていた。

隣の布団では、僕がすやすやと眠っていた。かれは僕が眠っているのをしばらく眺めてから、仰向けのまま、再び天井を見つめた。


窓外がだんだんと明るくなっていくにつれて、鳥たちの鳴き声は次第に小さくなっていった。鳥たちはおそらく、朝食を求めて巣を発っていったのだろう。

鳥たちのことを想いながら、かれはその身を起きあがらせるかどうかを考えた。時計は見えない。スマートフォンは足もとにあるコンセントプラグで充電中。充電はすでに完了しているだろうが、スマートフォンを取るために体を起きあがらせればそのまま起床することになるだろう。

できれば再び眠ってしまいたかった。しかし窓外の鳥たちを想うことから始まったかれの想像は際限なく広がっていった。今、かれはサバンナを駆けている。もちろん、かれはかれの想像のなかで、サバンナの大地を駆けている。

地平線に近いところにある太陽がだいだい色に大地を染めあげる。背の低い草がところどころに生えている。構わずかれは駆ける、駆ける、ときには草を踏んで、駆ける、駆ける。いくら駆けてみても、息はあがらない。想像のなかのかれは疲れを知らなかった。というより、疲れを、超越していた。かれは超越する存在だった。


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