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【短編小説】 月でふたりきりで暮らすイメージ (4)

彼は改札の手前で、わたしの姿が見えなくなるまで、じっとその場に立っていただろう。なんとなく、そんな気がしていた。最初、彼は手を振って、わたしのことを見送ろうとしていた。けれど、わたしが絶対に振り返らないだろうことを、直感すると間もなく手を振るのをやめた。

わたしの姿が見えなくなっても、彼はしばらくその場から動かなかったと思う。彼は、動こうとしなかった——いや、これもまた、なんとなくそんな気がしていたというだけの話なのだけど。わたしにとっては十分確信めいていた。彼は動くためのうまいきっかけを見つけだすことができないまま、駅の案内板にふと目をやる。わたしが乗ろうとしている上り電車がやってくるまであと15分くらい。その電車がこの駅を発ったのを確認して駅を去ろう。彼は決めた。そして、彼は次になにをする?……たぶんわたしのことを思い浮かべるだろう。駅のホームに立って(あるいはベンチに座って)電車を待っているわたしのことを思い浮かべるんじゃないかな。(やはり)そんな気がしていた。

3人掛けのベンチ。その端の席にひとりのサラリーマンが座って、居眠りしている。仕事に疲れて眠っているというよりかは、酒気帯びのせいで睡魔にとり憑かれてしまっているみたいだった。

サラリーマンの頭がこくりこくりと動く。たまに大きく頭が動きすぎたときに閉じていたまぶたが軽く開くんだけど、やっぱりまた閉じて、同じように、こくりこくりと頭が振られる。まるで振り子時計のように。延々とその動きを繰り返すだけの装置みたいだった。

彼の空想のなかで、わたしは、そんなサラリーマンに目もくれずに——かと言って、なにかほかのものを熱心に見ているわけでもなかった。わたしは線路をはさんで向こう側にあるプラットホームを、川の対岸を見つめるみたいにして見つめていた。


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宮澤大和
今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。 これからもていねいに書きますので、 またあそびに来てくださいね。