「我が青春のドイッチュラント」(7) 空港で寝た
2001年のこと。シュヴァルツヴァルト(黒い森)地方のオッフェンブルクから列車に乗って、フランクフルト国際空港へ到着。日本へ飛ぶのは翌朝だったのだが、ホテル代がなくなったので、一日早く空港に来たのだった。
巨大な空港の一角に、ソファーがずらりと並んだ所があり、様々な国籍の人達が腰掛けたり、寝そべったりしていた。
明るくて、空調が効いていて、警官がパトロールしている。こんな安全な場所は他にないかも。私も仲間に加わった。
シリア人の中年男性はとびきり美しい奥さんを連れていて、「女優さんですか。」と訊いたら、しきりに自慢を始め、「私は世界一の幸せ者だ。」と言った。にこにこ顔で、「シリアはいい所だよ。いつか遊びにおいでよ。」 は、はぁー・・・・。
すぐ側のトイレに行ったかと思えば、夫婦して民族衣装に着替えて戻って来た。スクリーンから抜け出てきたかのように素敵だった。
私は朝食の残りパンと水で夕食を済ませ、腰掛けたまま、ゆっくり目を閉じた。
翌朝、大きなゴミ箱の前で、朝食のために取っておいたバナナを1本食べようとしていたら、ブラジル人のおじさんがやって来た。手にバナナを1本持って。
「グッモーニング!」と挨拶し合って、仲良く並んでバナナを食べた。
「日本人は金持ちなのに、なんで空港で寝たんだい?」と訊かれたので、「金持ちじゃない日本人もいるんですよ。」と応えた。
私はどこかで見たか聞いたかした、バナナのギャグを披露した。
Aがバナナを持っていたらBがやって来て、一緒に食べたいと言う。Aが「いいよ。」と言うと、Bは「お先にどうぞ。4つ数えたら僕の番ね。」と言う。Bが「ワン、ツー、スリー、フォー」とカウントすると、Aは皮を剥く。Aがカウントする間にBが食べる。これをもう一回繰り返すと、バナナは無くなり、Aは「変だな、食べた気がしない。」と言う。おしまい。
おじさんは顔をくしゃくしゃにして笑った。大きなお腹が揺れた。
「あー、早く飛行機に乗って、機内食が食べたーい!」と、私が言うと、おじさんはまたもや大声で笑った。えーっ、今の、ジョークじゃないよ。本心だよー。
という訳で、ホテルで寝るより、ずっと楽しかったのでした。