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ロイヤル・オペラをキノシネマで『アンドレア・シェニエ』

5月に『ロミオとジュリエット』、6月に『つばめ』を観て以来、3か月ぶりにキノシネマにやってきた。

今回ご紹介する作品はフランス革命(1789)を舞台にした『アンドレア・シェニエ』。
METではなく、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの演目で、ウンベルト・ジョルダーノ(1867~1948)作曲、アントニオ・パッパーノ指揮、ロイヤル・オペラ管弦楽団の演奏による2時間55分のオペラ。

いつもは一人で出かける私だが、今回は友達と一緒。
Yさんはソプラノ歌手として活躍しつつ、お家ではピアノの先生と主婦、中学校で音楽の非常勤講師もやっているスーパーウーマン。ウィーン国立音楽大学に留学しディプロマ(卒業証書)を取得したプロ歌手で、私の尊敬する芸術家だ。
9月23日朝8:30,Yさんが桜色のマイカーで迎えに来てくれた。
高速道を安全運転。キノシネマまで約1時間。

キノシネマの入口
チケットカウンター
シアター2の入口

アンドレア・シェニエとは18世紀に実在した詩人で、1794年7月25日の朝、31歳で処刑された。
オペラの台本作者が同じなので、『トスカ』に似ていると言われている。
初演は1896年。

第1幕・・・1789年、フランス革命前夜。パリ郊外のコワニー伯爵家での夜会の場面。貴族の傲慢さに怒りを爆発させた従僕のジェラール(アマルトゥブシン・エンクバート)は、お仕着せを投げ捨て屋敷を飛び出す。
招かれていた詩人のアンドレア・シェニエ(ヨナス・カウフマン)は「愛」を軽く扱う令嬢マッダレーナ(ソンドラ・ラドヴァノフスキー)の言葉に対し、「あなたは愛を知らない。愛とは神が創りたもうた自然。神聖な贈り物なのです。嘲笑ってはなりません」と歌う。輝かしい高音が必要とされる美しいアリア(独唱)『ある日青空を眺めて』に胸が熱くなる。

第2幕・・・1794年。パリはロベスピエール(1758~1794)による恐怖政治の真っ只中。民衆は革命の理念を忘れ、貴族や反対派がギロチンで処刑されるのを見て歓声を上げている。シェニエはそんな状況を憂い、まともな人間であるが故に、危険人物と見なされている。
ジェラールは革命政府の幹部となっている。
マッダレーナはかつての女中ベルシ(カティア・ルドゥー)に養われている。母は殺され、屋敷は焼かれ、いつ見つかるかと不安な日々。
シェニエに再会した彼女は彼に助けを求める。
昔からマッダレーナに恋心を抱いていたジェラールは、シェニエに対し激しい嫉妬を抱く。

第3幕・・・ジェラールはシェニエを死刑にするための告訴状を書きながら、殺人者に成り下がった自分を軽蔑し、アリア『祖国を裏切る者』を歌う。「信念を失い、人を殺しながら泣いている」と。
シェニエの助命を頼みに来たマッダレーナは、「彼の命を助けてくれるなら、私の身体をあなたに差し出します」と、アリア『亡くなった母が』を歌う。彼女の愛に心打たれたジェラールはシェニエを助けようと法廷で彼を庇うが、覆すことはできず、シェニエは死刑を宣告される。

第4幕・・・牢獄でシェニエは人生最後の詩を創る。きれいに韻を踏んだ歌詞で有名なアリア『五月のある美しい日のように』が歌われる。
マッダレーナは牢番に宝石と金を握らせ、死刑囚の女性と入れ替わる。
シェニエとマッダレーナは『愛の二重唱』で、共に死ぬ歓びを歌う。「あなたの側にいると安らぎが訪れる。苦しみは終わる。私達は永遠に一緒」と。
朝が訪れ、しっかりと手を繋ぎ、微笑をたたえ、断頭台へと向かう二人の後ろ姿。悲劇ではあるけれど、愛の勝利が清々しいエンディング。

ああ、素晴らしかった! 来て良かった!
こんな素晴らしいオペラなのに、あまり上演されないのはなぜだろう。
Yさんが一言。「難しいからよ。」続けて、「音程がすごく高かったり、低かったりするし、脇役の人まで独唱があるし、演技力も必要だし・・・。これだけの歌手を揃えるのはなかなかできないと思う」 確かに。

主人公シェニエは1,3,4幕にソロがあり、2,4幕にはマッダレーナとの二重唱があるので体力が必要。加えて、情熱的で強い声を持ち、詩人らしく知的で品があり、できれば容姿端麗。ヨナス・カウフマン(テノール)の当り役なのは当然だね。

ジェラールを演じたアマルトゥブシン・エンクバート(バリトン)は最高だった。輝く歌声。なめらかで張りがあり、艶がある。ただ嫉妬に狂う悪役ではない、理想を達成したはずが歪んでいき、自問自答する複雑な役柄を説得力をもって見事に演じた。
Yさんにその事を話したら、「ええ、彼は素晴らしかったわね。声って前に飛ばすものだけど、彼の声は前だけでなく左右からも来ている感じ。もし、後ろに回って聴いたら、きっとよく聴こえると思うわ。稀なことよ」と、声楽家ならではのコメント。

マッダレーナ役のソンドラ・ラドヴァノフスキー(ソプラノ)はこの役を演じるのは3度目だという。情感たっぷりの歌声で切々たる演技だった。
メイドのベルシ役のカティア・ルドゥー(メゾソプラノ)も素晴らしかった。美しく、しっかりとした歌声。出番は少ないが、強く印象に残った。

ヴェリズモ(現実主義)オペラらしく、感情表現に重きが置かれていて、オペラではなく劇映画を観ているようだった。
指揮者のアントニオ・パッパーノは、「このオペラにはワグナー的なところとプッチーニ的なところが混じっている。ヴェリズモならではの残虐さに加えて、怒りとイタリア的情熱があるんだ」と語っていた。
コンサートマスターが言うように、「パッパーノのお陰で、楽団は確実に進化した」と思う。

Yさんも観終わった時、「『トスカ』に似てるわね」と言っていた。確かに似ているけど、私は台本作家のルイージ・イッリカはチャールズ・ディケンズの『二都物語』(1859年)に影響を受けたのではないかと思う。身代わりとなって断頭台行へ行くところがそっくりだ。1896年に『アンドレア・シェニエ』を書き、1900年に『トスカ』を書いているので、似ているのではないかと推理した。

舞台美術も衣装も時代を正確に再現していて素晴らしかった。幕が、血で汚れたフランス国旗となっており、右下部分がちぎれているため、開く時、閉まる時に見える斜めの舞台が劇的効果を生んでいた。

カイタック・スクエアガーデンの屋上庭園
「サンセット・ガーデン」は無料休憩所

午後1時、キノシネマを出て、屋上庭園へ。Yさんと写真を撮り合いこ。
「さあ、ランチへ参りましょ」 「わーい!」
今まで通り過ぎるだけだった、イタリアン・リストランテ 「CANOVIANO」へ。徒歩5分。

「カノヴィアーノ」(イタリア語でルビーという意味)の入口

3種あるランチの中の最安値を選んだ。¥3850。

私は自家製ジンジャーエール Yさんはクラフトコーラ
ズッパは和梨の冷製スープ
パンはオリーブオイルで頂く
アンティパスト(前菜)はブリのカルパッチョ、オクラのソース、糸島野菜のサラダ仕立て、
プリモ・ピアット(主菜)は長崎県産イワシのブッタネスカソース、スパゲッティーニ
セコンド・ピアット(第二の皿)は九州産イトヨリ鯛の炭火焼、赤パプリカのソース、
散らしてあるのは紫蘇の花
キャラメリゼしているところ
ドルチェ(デザート)は焦がしキャラメルと生チョコレート
カモミールティーを頂きました。これでお料理はおしまいです。
こんな本格的な豪華なランチ、初めてです。
外には滝がありました。


興奮冷めやらぬ私達は帰りの車内でもキャッキャッ、キャッキャしていた。
Yさんの近況報告に笑い転げた。
「今日は本当に楽しかったわ! また行きましょう!」「もちろん!」

最後までお読みくださった皆様、ありがとうございます♪♪
心からの感謝をお受け取りください。

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