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世界一のギタリスト、チャボロ・シュミット主演!「僕のスウィング」    忘れられない夏

仏独国境沿いのストラスブール。曇天の下、材木置き場の間の道を、ギターを肩にかけた中年男が、画面のこちらに向かって歩いてくる。

一方、10歳くらいの少年が向こうへ歩いて行く。この二人が出会う。ギターの先生と生徒として。

「ギター・マヌーシュ(ジプシー・ギター)を教えて」と、少年は男に言う。教室は先生のトレーラー・ハウス。

そばかすだらけの顔に緑の瞳の少年マックス(オスカー・コップ)は、その日出会った大きな黒い瞳のロマの少女スウィング(ルー・レッシュ)に心魅かれる。

夏休みの間だけ、おばあちゃんのお屋敷に預けられている彼は、すっかり仲良しになったスウィングと、ロマの人達のエリアで、森で、川で、毎日一緒に遊ぶ。

ギターの先生ミラルドを演じているのは、チャボロ・シュミット。ギターの王様ジャンゴ・ラインハルトの後継者と言われている、世界最高のギタリストだ。1954年生まれだから、この映画が製作された2002年には48歳だった。監督はトニー・ガトリフ。翌2003年、ジャンゴ・ラインハルトの没後50周年に、日本公開されている。

チャボロ・シュミットは日本でも4回公演していて、私が聴きに行ったのは2006年だ。容赦ない真夏の太陽の下、コンサートホールが開場するまで2時間近く待った。そして、私のすぐ後ろに並んでいた若い女性と知り合った。東京から飛行機でやってきたK.N.さんとはその日、会場で会ったきりだが、16年たった今でも文通している。

マヌーシュ(フランスのロマ人)・スウィングを生で聴いたのは、その日が初めて。シビレた。何時間でもずっと聴いていたいと思った。あの独特のリズム。わくわくしてくる。

チャボロさんはとっても優しい人で、会場のスタッフが、「5時だから、もう終わりです」と言って、サイン会を打ち切ろうとしたのを制して、並んでいた最後の人まで、笑顔でサインをしてくれた。

映画に戻ろう。 マックスへのミラルド先生の教えが忘れられない。   「音楽を身につけるのは耳からだ。譜面からじゃない。耳とハートだ。わかるか」 そう、そうですよね、チャボロさん!

幼いながらも人を愛することを知ったマックスとスウィング。二人だけの時間は大切な宝物。でも、夏休みの終り頃には「ママが迎えにくる。ギリシャに行くんだ」と、マックス。スウィングは言う。「このまま残って。森に隠れるの。私が食べ物を運ぶ」と。

ミラルド先生は或る日突然、地面に倒れて、そのまま帰らぬ人となる。ロマの人達は亡くなった人の家具や持ち物をすべて焼くしきたりがある。ミラルドの場合、トレーラーごと燃やされる。大事なギターさえも。      涙を流すマックス。彼の夏休みが終わった。

迎えにきたママの車に乗って、走り去ってしまうマックス。別れの言葉さえ交わさなかった。スウィングは一人泣き、彼から手渡された日記帳を捨てる。

スウィングの願いに応えられなかったマックス。だって、まだ子供だもの。森にずっと隠れ住むなんてできないし・・・。             どこか諦めたような、悟ったような、大人びたスウィングの表情が美しく、ロマの哀しみを滲ませているように見えた。

演奏シーンも多く、音楽映画としても楽しめます。

チャボロ・シュミット


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