#02|絵里と私
「明日、彼にプロポーズしようと思っているの」
新宿地下街の飲み屋で絵里にそう言われたのは、彼女が挙式をあげる一年前の事だった。
遡ること十九年前。絵里と私は大学映画研究サークルで出会った。
田舎から上京して、幼馴染だった私達はよく映画を観に行ったり、閉門ギリギリまで部室でお喋りをしたりして過ごすことが多かった。
一般的に考えて、絵里に対し恋愛感情を抱いてもおかしくはないが、それは皆無。
何故なら私はゲイだから。
ゲイであると最初にカミングアウトしたのも絵里だった。
ゲイであると告白できたのは、絵が単に異性だったからだけではなく、彼女だったら、人には知られたくない恥ずかしいと思う自分の部分も受け入れて貰えそうな、そんな気がしたからだ。
「君といると、つい異性といるっていう感覚を忘れて、何でも話せてしまう。
寧ろ同性には恥ずかしくて話せない下ネタまで話せるから不思議なんだ・・」
卒業旅行に二人で熱海に出掛けたとき、眠る前、絵里は天井に向かってそんな事を呟いた。
その夜、宿泊するホテルから歩いて行ける老舗風の居酒屋でご飯を食べた。
私がトイレに行っている間、絵里と店の女将さんが何やら楽しそうに話をしていた。
帰り道に何を話していたのかと尋ねると
「あんないい男逃したら、絶対後悔するわよ」と女将さんに念を押されたらしく、絵里も冗談半分で受け流していたみたいだった。
内心どう思ったのかは知らない。
新宿で最後に会った一年後のある朝。
眠い眼でスマートフォンを手に取り、画面を見ていたら、
ウェディング姿で後ろ姿の幸せそうな絵里の写真を目にした。
学生時代にあれほど誼を結んだ関係は、単なる思い込みだったのか・・
絵里は私を結婚式には呼ばなかった。
それを本人に直接からでなく、SNSで知ったショックも大きかっ
絵里を大事な友達と思っていたのは私だけだったのか。
数少ない幼馴染が遠くへ行ってしまったようで悲しかった。
それ以降、彼女に連絡はしていない。
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