【第110回】ディズニー映画「カールじいさんの空飛ぶ家」のシーンから使える英語表現をいくつか掘り下げてみました。
It was a cinch.
It was very easy. と言い換えることができますが、「簡単な」は easy や simple の2択かもしれません。私自身も、この cinch は知っていましたが使った記憶がありません。
easy よりも「インフォーマルでもっと簡単な」を表す語が cinch です。a piece of cake も同義語です。
日本語では easy は「簡単な」ですが、cinch は「朝飯前」や「楽勝の」という訳がピッタリだと思います。
「朝飯前」という言葉は日本語がネイティブは人なら普通に使いますが、日本語が母語でない人で、学習途上にある人が「それ朝飯前だね」というと違和感抱きませんか?
(失礼なのは分かっていながら)思わず吹き出しそうになってしまうかもしれません。「“朝飯前”なんて言葉どうして知ってるの?」みたいな感じです。
そう考えると、日本人が英語を話す時も同じことが言えるのではないでしょうか。It was a cinch. と言うとどんなふうに受け取られるのか…。
その語がかもし出す雰囲気や感覚というのが分からなければ「その語句を使うと相手がどんなふうに受け取るか」を把握するのは難しいです。
でもそんなことを考えすぎてその表現や語彙を使わないより、“ともかく使おう!”という態度の方が大切なのはわかってるのですが、“語感”というものを思わず考えてしまいます…
cinch を使わないのも、外国の方が「朝飯前」なんてほとんど使わないのと同じなのかなあと勝手に考えてしまいます。
やっぱり「“語感” って大切だ」とヒシヒシと思う毎日です。
① There, that ought to do it.
気球の風船のいくつかを切って、気球の進路を変えた時にカールじいさんが言った言葉で、意味は「これでよし」です。
でもこの英語表現わかりにくくないでしょうか。直訳は「あれは(That) それを(it) するべきだ (ought to do)!?」 で何のことかわかりません。
どうして「これでよし」となるか、は次のように考えていけばわかると思います。
That: 気球の風船をいくらか切ったこと
ought to… : 「…のはずだ」
do it : 目的を達成すること。( 「それをする」と言うのはやりたいことができるということですね)
すなわち、これらの語句をつなぎ合わせると、
「気球の風船を切ることが、目的を達成するはずだ」
です。そこから「これで大丈夫なはずだ」や「これでうまくいくと思う」という意味になるのです。
ought to の代わりに should を使って That should do it. でも同じ意味を表します。
難関大学入試問題で出題される難しい語句よりも数倍難しい That ought to do it. ではないでしょうか。
② How much longer?
字幕では「地上まであとどのくらい?」となっていますが、文脈がとても大切だということがわかる表現です。
省略せずに書くと、How much longer until we reach the ground? 「私たちが地上に着くまでどれくらいかかるの?」です。
この How much longer? は次のようにいろいろな状況で使えます。
「あとどれくらい?」
・ショーが始まる How much longer ( until the show starts )?
・夕食ができる How much longer ( until supper is ready )?
・店が開く How much longer ( until the store opens )?
・夏休みが始まる How much longer ( until the summer vacation begins )?
このセリフを取り上げたのは、日本語字幕が絶妙だと思ったからです。
can’t はここでは「できない」ではなく、「はずがない」の意味です。直訳は「我々(カールとラッセル)はまだ地面に近いはずはない」です。
カールは、まだ地面は遠いと思ってるのに、ビルにぶつかりそうになり、実際はそうでないことがわかったのです。
字幕は、「もう地面か?」と肯定的に訳しているのでスッと頭の中に入ってきませんか。
よく教科書に出てくる It cannot be true. は「それは本当であるはずがない」と訳されているのがほとんどだと思いますが、イマイチしっくりいかないのは私だけでしょうか。
これを「それって本当ですか?」と訳すとスッキリしませんか?字幕から学べることたくさんあります。
森の中を歩いていると、ラッセルがトイレに行きたいと言い出すシーンです。
Go on into the bushes and do your business.
do your business の直訳は「仕事(business) をする」なので、「やぶ (bushes) の中に行って、仕事をしてこい」ですが、いまいちピンときません。
この do one’s business には「用を足す」という意味があります。
business は「仕事」=「重要なこと」ですが、トイレに行くことも「大切なこと」です。そこから、婉曲的に business がトイレと結びついています。
トイレなどの sensitive ( 敏感 ) な話題について、柔らかく伝えるための言葉です。“business” と呼ぶことで、トイレの用事を控えめに表現できるわけです。
日本語の「用を足す」も婉曲的な表現で、do one’s business にピッタリです。
この do one’s business は犬にもよく使われます。犬に向かって “Go do your business outside.” などと言えます。