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映画「リメンバーミー」でミゲルが噛み締めるように言った “through and through” が、なぜ「どこを切っても」なのか?
映画「リメンバーミー」の主人公ミゲルは音楽の世界に憧れを抱いていたのですが、靴工房で働くことになったことを父親から告げられました。その時、落ち込んだ表情で言った言葉が、“Through and through” です。
あまり聞かない表現ですが、今回はこの through and through について見ていきたいと思います。
次の会話は、映画の中で父親から靴作りの許可が出たことを告げられた時のミゲルと父親の会話です。
ミゲル: But what if I’m no good at making shoes. ( でも僕がヘタッピだったら?)
父親: Ah, Miguel, you have your family here to guide you. You’re a Rivera. And a Rivera is ... ( 大丈夫、ご先祖様が導いてくれる。お前もリヴェラ家だ。リヴェラ家と言えば?)
ミゲル: A shoemaker. Through and through. ( 靴職人。どこを切っても)
父親: That’s my boy! ( さすが息子)
リヴェラ家は代々靴職人の家系だったので、ミゲルは、「リヴェラ家と言えば?」と父親にたずねられた時、「靴職人。どこを切っても」と嫌々ながら答えたのです。
そして今回学習する through and through は、辞書には「徹底的に」や「とことん」と言った意味が載っていますが、through 〜 は次の例文のように、「〜を通って」という意味で普通は用いられます。
I went throght the park..「私は公園を通って行った(=通り抜けた)」
ここで考えなくてはならないのは、なぜ through and through が「徹底的に」という意味になるのかということです。一つわかるのは、through が繰り返し使われているので、「強調」されているということです。
ですから through のニュアンスがわかれば、その“強調版”であると考えていいと思います。
では through を深掘りしていきましょう。
through の一般的な意味は「〜を通って」ですが、「〜を通って」という日本語はどんな意味があるのでしょうか?
I went through the park. ( 公園を通り抜けた ) というのは、「公園の入り口から入り、出口から出て行ったのです」(必ずしも入口と出口を通ったとも限りませんが、公園に足を踏み入れて中を歩いて最後に出て行ったのです)
ここで大切なのは「(公園の)最初と(公園の)最後」という概念です。 through には、この「最初から最後まで」というニュアンスがあり、特に「最後」を強調した語なのです。
次の through を使った表現を見て下さい。
I went through college two years ago.(大学を終了)
It was raining all through the night.(一晩中)⇨ 夜の最初から最後まで
Are you through?(食事などが「終わった?」) ⇨ 食事の最初から最後まで
I'm through with that book.(その本は読んだ)⇨ 本の最初から最後まで
I'm through with you…(もう君とは終わりだね)終了!
He slept through the movie.(映画の間中寝ていた)⇨ 映画の最初から最後まで
どうでしょうか。上の例文のすべての through には「初めから終わりまで」のニュアンスがあるのがわかります。
ミゲルのセリフに戻りましょう。A shoemaker. Through and through.
リヴェラ家は代々靴職人の系列なので、初代から現在までずっと靴職人です。ですから、「最初から最後まで」を表す through が使われているのです。
また、through and through と through が繰り返されているので、より意味が強調されていると考えられます。「徹底的に( 徹して)ずっと靴職人」なのです。
字幕の「どこを切っても」は素晴らしい言い回しですよね。なかなか出てきません。さすがプロ、という感じです。
この「徹底的に」を意味する through and through を使った例文をChatGPTで調べて見ました。
The house was spotless, clean through and through.
(家はピカピカで隅々まで綺麗だった)
He remained optimistic through and through.
(彼は終始楽観的だった)
He is a Kyoto native through and through.
(彼は根っからの京都人だ)
特に最後の「根っからの〜」はユニークな表現ですね。
今回は through and through を取り上げましたが、through のニュアンスを把握していれば意味は取りやすくなると思います。
<補足>
through とは関係ないのですが、ミゲルと父親の会話で “But what if I’m no good at making shoes.” ( でも僕がヘタッピだったら?) とありますが、この I’m no good at...は、I’m not good at ... よりも強い表現です。ですから、字幕の「ヘタッピ」は最高だと思いませんか?こんな訳なかなか出てきません。個人的に字幕翻訳について勉強したくなりましたね。
Good luck with your English studies!