
【第149回】ディズニー映画「Mr. インクレディブル」のシーンから使える英語表現をいくつか掘り下げてみました。
Helen: Snug, I’m calling in a solid you owe me. 「スナッグ、あなたには貸しが」
Snug: What do you need? 「頼みは?」
Helen: A jet. What do you got that’s fast? 「ジェット機よ。速いのある?」
Snug: Let me think... 「どれがいいかな… 」
ヘレンが知り合いのスナッグと電話で喋っています。
① I’m calling in a solid you owe me.
call in … は“中に呼び込む”から「(援助などを)求める」です。
また solid は “a” がついているので名詞です。意味は「(親切な)好意」ですが、favor と同義語です。
ただ英英辞典の中にはこの意味で載っていないものもあり、あまり使われないのではないでしょうか。
you owe me が a solid にかかっていくので「あなたが私に借りのある好意を私は求めている」が直訳です。
平たく言えば「あなたには貸しががあるので今それを返してほしい」です。
② A jet. What do you got that’s fast?
文法的には What have you got that’s fast? が正しいですが、この文のポイントは “that’s fast” がかかる語です。
その語は “What” なのですが、あまり what にかかっていくというのはないので分かりづらくなっています。
ですから直訳は「“速い何か”をあなたは持っている?」です。直前に “A jet.” とあるので、速いジェット機をヘレンはスナッグから借りようとしているのです。
日本語字幕は「速いのある?」ですが、全部略さずに訳すと「あなたが持っているジェット機の中で、速いものは何?」となります。
Helen: Easy, Helen. Easy. Easy, girl. You’re overreacting. Everything’s fine. They’re just all getting coffee. At the same time. Yeah. 「落ち着くのよ、ヘレン。なんでもないわ。管制官はコーヒータイムよ。みんなで一緒に」
ヘレンがジェット機の操縦をしながら独り言を言っています。
You’re overreacting.
“オーバーリアクション”というカタカナがありますが、発音以外は overreaction と同じで「過剰反応」という意味です。
この動詞が overreact で「過剰反応する」です。「過剰反応する」というのは、自分を見失っていることです。
ヘレンは自分を落ち着かせるために自分に対して You’re overreacting. と言ったのです。(You はヘレン自身です)
字幕の「なんでもないわ」は “Easy. Easy, girl. You’re overreacting.” を全部含めての訳だと思うのですが、見事にまとめられた訳です。
他にも「慌てるんじゃない」や「落ち着いて、落ち着いて」などと訳せますね。
A: “I failed the test. I’m going to die.” 「テストに落ちた。もう死にたい」
B: “It’s not the end of the world. You’re overreacting.” 「別に世界が終わるわけじゃないし。大げさすぎるよ」
Helen (Mrs. Incredible): All right! Well, who’d you get?「そう、誰に預けたの?」
Kari: You don’t have to worry about one single thing, Mrs. Parr. I’ve got this baby-sitting thing wired. I’ve taken courses and learned CPR and I got excellent marks and certificates...「ご心配なく。ちゃんと面倒を見ます。心配蘇生法も習ったし。ライフセーバーの免許も」
I’ve got this baby-sitting thing wired.
文法的なポイントは “get … 形容詞” で「…を(形容詞)の状態にする」です。
We need to get this project ready by Monday. 「このプロジェクトを月曜日までに準備する必要がある」
単語としてのポイントは wired です。wired は形容詞で「有線の」、「針金を張った」と言う意味ですが、スラングで「神経過敏な」という意味にもなります。
キラキラした針金(ワイヤー)から「神経を張り詰めた」というのはイメージしやすいのではないでしょうか。
でもこの文脈では、ベビーシッターのKari は自分の仕事に自信を持っており神経過敏にはなっていません。ですからwired を“神経過敏な”で訳すと文脈に合わなくなってしまいます。
ChatGPT で調べると
Wired: Slang for having complete understanding or expertise in something.
とあり、スラングで「神経過敏な」以外に「 何かを完全に理解している」、「専門知識を持っている」という意味があります。
でも「針金を張った」という wired の意味と「完全な理解」の間の繋がりに興味を持ち、CHatGPT に尋ねてみました。その答えは次のとおりです。
The informal meaning of “wired” as “mastered” or “fully understood” likely comes from the idea of being “connected” or “set up well,” like how electrical systems are wired to work properly.
「wired が「習得する」や「完全に理解する」という意味になるのは、おそらく電気システムが「配線(wired)されて正しく動く」というイメージから来ている」との回答でした。
適切な(ワイヤーによる)配線が“完全な理解”と結びついているというのは、なるほどと感心してしまいました。
すなわちKari が言った I’ve got this baby-sitting thing wired. は「ベビーシッターのことは完璧に把握してるよ」で、もっと砕いて言うと「心配しないで、ベビーシッターのことなら任せて」です。
Helen (Mrs. Incredible): Kari, I really don’t feel comfortable with this. I’ll pay you for your trouble, but I’d really rather call a service. 「カーリ、でもやっぱり心配だわ。バイト代は支払うからプロに代わって」
① I really don’t feel comfortable with this.
this は“ヘレンの子供の面倒をKari が見ること“を指します。
直訳は「私はこのことに快適さを感じない」です。すなわち「このことに違和感を感じる」や「このことに気が引ける」と意訳できます。
私は「違和感を感じる」という日本語をよく使うので、個人的にとてもこの I don’t feel comfortable with … の英語が気に入っています。
でも「違和感」を英語に直せと言われたら一瞬「???」になるかもしれません。ですから、I don’t feel comfortable with ... はぜひ覚えておきたい表現です。
② I’d really rather call a service.
call a service = 「サービスに電話する」ですが、「業者に頼む」がピッタリです。
「業者」って訳しにくいですが service でいいのです。字幕は「プロに代わって」ですがいい訳ですね。
The sink is leaking. I think we should call a service.「シンクが漏れてるね。業者を呼んだほうがいいと思うよ」
「配管業者」と言いたければ a plumber service ですが、文脈がわかっていれば a service だけで通じます。