ライトアップ木島櫻谷
『四季連作屏風』を全点一挙公開
展示室に入ると、四双の金屏風(プラス『竹林白鶴』)が四方を囲んでいて、なんという贅沢な空間。
大正6年~7年にかけて、大阪天王寺の茶臼山に新築された住友家本邸を飾るために、縦180センチ・幅720センチを超える大きさで制作されました。
『四期連作屏風』の内訳は、春の『柳桜図』、夏の『燕子花図』、秋の『菊花図』、冬の『雪中梅花』です。
順路は冬から始まっていて、私は『雪中梅花』が一番好きなので、これ幸い。
おそらくしかし、学芸員さん側としては、唯一写真撮影可だった『燕子花図』を正面に持ってくるために、そんな順番になっただけかもしれませんが。
『雪中梅花』
そばへ寄ってみると雪が厚塗り。
木工ボンドのように盛り上がり、「雪が降り積もった」立体感が物理的に表現されています。
応挙作『雪松図屏風』のオマージュということですが、応挙の作品は雪の部分を塗り残し、紙の白地で表現しているところが、徹底的に違う点です。
そしてとにかく真っ白。
混じりっけも透明度も陰影もゼロ、ただ真っ白。
胡粉の白、これぞ日本の白。
しかし繊細な枝ぶりが、厚塗りの重たさを感じさせません。レース編みのような枝に丹念に載せた胡粉が、遠目では、はかなげな雪のように見えるのです。
また、お化粧の最後に頬にチークを塗るように、枝にぽとぽとと置かれた苔が、幹に生命感を与えています。
<比較>
応挙の『雪松図屏風』国宝 三井記念美術館蔵
私の好みから、こちらもご紹介します。
岸連山の『寒月照梅花図』です。
素晴らしい。
『柳桜図』
桜の花びらが、つぼみを除きすべて正面を向いているのは、琳派の意匠化した描き方です。
四条派と言われる木島櫻谷ですが、琳派の影響も受けているのですね。
桜と柳は、別の場所で描かれたものを、画面で一体化させたような重なり方をしています。
柳のほうは、下から風が吹いて、枝葉をもちあげているように見え、そのため画面下に入っていくように、引き込まれるのでした。
『燕子花図』
こちらのみ、写真撮影可。
青山の根津美術館で展示中の、光琳の国宝『燕子花図屏風』をオマージュした作品。
光琳のかきつばたは、もうすこし、ぼやーん、ぼとん、としているんですよね、こんな表現ではわからないと思いますが(^_^;)、こちらのほうがシュッとしています、花も葉も。
光琳のオマージュではなく、木島櫻谷オリジナルで描かれていたなら、どんな絵になったんだろうと、見てみたい気がします。
『菊花図』
菊花は桜よりいっそう正面性が際立っています。
白い菊の後ろに赤い菊を小さく添えたり、濃い緑の葉っぱのうしろに薄い緑の葉っぱを添えることで、白菊が迫ってくるような立体感が出ていて、西洋の遠近法の技術が伺えます。
櫻谷は西洋の技術を浅井忠から習っていたそうですが、浅井忠の洋画は西洋の人が描いたような、どこからどう見ても洋画。
3つの展示室、傑作ぞろいで、どれを選ぶか迷いましたが、webから写真をお借りできそうな絵をピックアップして、2点ご紹介します。
『獅子虎図屏風』
水を飲んでいる虎と、遠くを睨みつけているかのような獅子。
白の胡粉で毛並みのハイライトを描いたり、濃淡が強調されているところは、油絵の技法。
琳派の唐獅子などと比較すると、写実性がすごい。
生涯、片時も写生帖を手放さなかったと言われる木島櫻谷の写生力の、骨髄でしょう。
『葡萄栗鼠』
あくまでも個人的な好みですが、紙が透けるようなさらっとした絵が好きです。
木の枝の掠れ具合、葉っぱの先の縮れ具合、ぶどうの蔓のか細さ。
行く前にわたなべ・えいいちさまのnoteで予習させて頂きました。
この場を借りてお礼申し上げます。
昨年の展覧会ですので、この記事の展示品とは内容が異なります。
<参考資料>
イロハニアート「最後の四条派と称された木島櫻谷の四季連作大屏風の全点公開、丸山・四条派の画家たちとの動物画の共演」つくだゆき著 2024年
https://irohani.art/event/16550/
京都芸術大学ギャラリーガイドwebサイト
https://www.kyogei-ob.jp/review/?p=2818
美術手帖「ライトアップ木島櫻谷(泉屋博古館)開幕レポート 江戸絵画の伝統を引き継いだ先に櫻谷が見ていたもの」 2024年3月16日
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/28635/pictures/8