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映画『大河への道』

あれほどの偉人、伊能忠敬は、なぜ大河ドラマにならないのだろう。

千葉県香取市の市役所勤務、池本(中井貴一)は、ミーティングの最中に、「郷土の偉人・伊能忠敬を大河ドラマにしましょう」と提案したことから、プロジェクトを率いることになってしまいました。
ところが脚本のための勉強をしている最中に、伊能忠敬は地図が完成する3年前に亡くなっていることがわかります。
つまり完成させていない?!
これじゃあ、伊能忠敬が地図を作ったドラマはできないと面食らう。

ここで画面は現代劇から時代劇へと転換し、中井貴一は高橋景保に扮します。
高橋景保は、伊能忠敬が師事した高橋至時の長男。
伊能忠敬が亡くなったことを内緒にして(すなわち幕府の公費を使い)、地図を完成させたいと懇願する弟子たちを、もし幕府にばれれば死罪になると突き放した高橋景保ですが、いつしか誰よりも地図の完成を望むようになっていきます。

3年が経ち、完成した地図『大日本沿海輿地全図』を幕府に献上すると、徳川家斉はたいそう感激し目を潤ませます。
「伊能忠敬はどこにいる?」と訊かれ、高橋景保は死罪を覚悟のうえで、「ここにおります」と伊能忠敬の形見である草履を差し出すのでした。


『大日本沿海輿地全図』
このように何枚も貼り合わせたんですね。
映画では畳の大部屋一面に広げられ、輝くばかりでした。

朝日新聞デジタル https://digital.asahi.com/special/inou_chuzu/00.html

いわゆる人情噺で、役者も全員うまく、北川景子さんが本当にきれいで、私には非の打ち所のない映画でした(もともと映画に対して批判的になることはあまりないのですが)。
測量のために使われた道具を写真で見ても、どう使っていたのか想像できなかったところ、映画で実際に使っているところを見ることができ、いやあ、すごいなあ、と感心するばかり。

半円方位盤

千葉県香取市 伊能忠敬記念館所蔵


量程車

千葉県香取市 伊能忠敬記念館所蔵


象限儀

千葉県香取市 伊能忠敬記念館所蔵


わんか羅鍼(杖先方位盤)

千葉県香取市 伊能忠敬記念館所蔵



伊能忠敬は私が最も尊敬する人物のひとりで、50歳になってから天文学を志し、17年間かけて日本全土を測量したなんて、考えられないくらいの偉業だと思うし、なぜ大河ドラマにならないのか、本当に不思議。
若い頃は養子になった酒造家を盛りたてて財を成し、名主としても慧眼で、天明の大飢饉では地域内にひとりの餓死者も出さなかったほど、勤勉実直な人だと伝わっています。


いっぽう高橋景保の人物像が気になります。

そう、シーボルト事件。
獄死したあと、遺体が塩漬け保存され、さらに斬首刑になるほど、高橋景保は悪いことをしたのかしら。

塩漬けですよ?
内蔵を取って、そこへ塩を詰め込むそうです(あまり詳しく書きたくない)。

当時の日本地図は国防のためトップシークレットで、日本人すら見ることができませんでした。
それを外国人に渡しちゃうなんて、極刑を受けてもしかたありません。
なにしろピリピリしていた時代でしたし。

ですが、私はこの事件は、高橋景保とシーボルトの、研究者としての純粋な(と言ったら過言だとしても)好奇心・探究心から起こった事件ではないかと思うのです。
学者としてシーボルトは日本地図が喉から手が出るほど欲しかったし、高橋景保もクルーゼンシュテルンの『世界一周記』を見てみたい。その前に自分でも世界地図を作っているので、比較してみたいと思うのは当然でしょう。
それに高橋景保は自身が地図完成に尽力しているので、どこかに、これは俺たちのもの、みたいな気持ちがあって、友だちにあげてもいい権利があるような気持ちになっていたのではないか、と思うのです。

いったんは永久追放になったシーボルトは再び日本へ戻ってきて、幕府に雇われ、日本の近代化に大きく貢献することになります。

孫の楠本高子はドイツ人とのクオーターのせいか目を見張るほどの美女で、松本零士作『銀河鉄道999』のメーテルのモデルのひとりだったとか(たしかに目元が似ています)。


出典:Wikipedia


高子は日本初の女性産科医となり、明治天皇の御子をお取り上げになったほど、最終的にシーボルト家は日本人として日本の歴史に名前を刻むのです。

高橋景保も生きていたら…。



カバー写真:「大河への道」公式Webサイト
https://movies.shochiku.co.jp/taiga/


<参考資料>

香取市公式Webサイト「伊能忠敬とは」https://www.city.katori.lg.jp/smph/sightseeing/museum/tadataka.html

InoPedia「伊能忠敬e史料館」
https://www.inopedia.tokyo/01ino/

和楽Webサイト 小学館
「シーボルトの娘で日本初の女性産科医、楠本イネと孫・高子。ふたりの美女の波乱の人生とは」
https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/74182/

朝日新聞デジタル 
https://digital.asahi.com/special/inou_chuzu/00.html


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