幼子は色彩のブルースを口ずさむ
「すごいもの聴かせてやるよ」
小さい頃、父は決まってそう言ってカーステレオから曲を流した。はじめて聴く音たちは車内を非日常へと彩り、走るたびにガタンガタンと揺れる古いミニクーパーを異世界へと吹き飛ばす。
『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』で大滝詠一の1969年のドラッグ・レースが流れ出して、まる子を乗せたロールスロイスがライムグリーンの煙をあげながら道も河も走り抜けて空を飛んでいってしまったのと同じ。どこまでも行けそうと夢を見る。
あのときの目から星が零れ落ちたような感