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木から塩がとれるなんて、ホントかな~じいちゃんの小さな博物記⑯

「ヌルデは、虫こぶをお歯黒に使ったということが知られますが、実から塩がとれるので、『塩の木』とも呼ばれます。」と谷本さん。
ただ、採集しようとするといつの間にか消えていることが多いので、探しに行ったらまずまずの塩ふき具合だったとか。そこで、今回は「塩の木」のお話です。
『草木とみた夢  牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第16回をお届けします。

谷本雄治(たにもと ゆうじ)
1953年、名古屋市生まれ。プチ生物研究家。著書に『ちいさな虫のおくりもの』(文研出版)、『ケンさん、イチゴの虫をこらしめる』(フレーベル館)、『ぼくは農家のファーブルだ』(岩崎書店)、『とびだせ!にんじゃ虫』(文渓堂)、『カブトエビの寒い夏』(農山漁村文化協会)、『野菜を守れ!テントウムシ大作戦』(汐文社)など多数。

「塩の木」という不思議なものがあると孫に話したのは、いつだったろう。
「木に塩ができるの?」
「ヌルデという木があってね、その実にできるそうだよ」
 ヌルデはウルシ科の樹木だが、かぶれる人はまれだとされる。もしもそれらしい樹木に出会ったら、葉に「翼」があるかどうかを見ればいい。ヌルデなら、葉の軸の部分が紡錘状に広がっている。

葉の軸の部分が紡錘状にふくらんだヌルデ
ヌルデの芽生え。気をつければヌルデの木はあちこちに生えている

 子どものころ、海水を煮詰めて塩をつくった。水分を蒸発させれば、塩づくりのまねごとができる。
 しょっぱかった。それは予想した通りだが、海から離れた山のヌルデから、塩がとれる? しかも古代人や山国の人々がその塩を使ってきたとか、戦国時代には籠城に備えて城に植えた木だと聞けば、なおさら興味がわく。
 というわけでずっと気にしていたのだが、高いところにしか実がなかったり、時期が遅すぎたりした。ヌルデは雌雄異株なので、雌の木でないと、そもそも実がならない。
 ところが幸運にもこの夏、手が届く高さで咲く雌花を見つけた。しかも、ご近所といっていい場所だ。実ができてからはたびたび足を運び、〝塩どき〟を待った。
 そして晩秋。ブドウの房のようになった実の一粒ごとに、濡れた感じの塩のようなものが付いた。みぞれで実をくるんだようにも見え、手に取ると少しべとつく。

白っぽい房を近くで見ると、なるほど塩が付着したように見える  
雪かみぞれのようなヌルデの塩。水分を含んでいて、べたつく 

 数粒まとめて、なめてみた。
 なるほど、塩味だ。酢を思わせる酸味も感じる。リンゴ酸カルシウムがその成分だというから、塩化ナトリウムを主体にする一般的な塩の味とはどこかちがう。
 房をいくつか持ち帰った。孫にも少し分け、数日後に感想を求めた。
「塩の味がしただろ?」
「お母さんが、そんなのなめちゃダメって」
 毒はないはずだが、ウルシ科であることが災いしたようである。
 それにしても、どうやったら塩だけ集められるのか。ピンセットで白い塩の部分だけこそげ取ろうとしたのだが、うまくいかない。

ヌルデ塩。まとまって取れたように見えるが、ピンセットの先にほんの少しくっついているだけだ 

 だったら、海水でしたような水分飛ばし法だ。ビニール袋の中で実をもみ、塩を袋の表面に付着させてから、天日干しにした。すると、白い塩はきれいに姿を消していた。
 房ごと水の中で振るい、塩分を水に溶かす方法も試した。指につけてなめると、まぎれもない塩味がした。布でこして実の表面についたごみを取り除けば、料理に使えそうだ。むかしの人たちはこうやって、塩水として利用していたのかもしれない。

ヌルデの実を干したら塩は消えたが、たしかな塩味がして味わい深い。
個体差なのか、実の色は房ごとに異なる

 房ごと1週間干して、乾燥品もつくった。生薬の「塩麩子(えんふし)」とはこれだろう。口に含むとさっぱりした塩の味がするから、これをすりつぶして調味料にする手もある。
 「塩の木」が現代人に認めてもらえるかどうかは、そこらの塩加減がカギなのかなあ。