タンポポの花茶とリーフ茶、根のコーヒー、おいしく飲めるのはどれ?~じいちゃんの小さな博物記㉓
「春といえばやっぱりタンポポかな」「そして、タンポポなら久しぶりにコーヒーを作ろうと思うのですが」と谷本さん。しっかり乾燥させてつくったタンポポの味は?
『草木とみた夢 牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第23回をお届けします。
弥生、3月、春の始まり。ポカポカ陽気に誘われて田んぼ道を歩いていたとき、にわかにひらめいた。タンポポのコーヒーを作ろうと。この前つくってから、かれこれ20年にはなる。
最初に見つけたタンポポのまわりの土をよけて、うんこらしょっ。根の首あたりをひっつかみ、力まかせに抜こうとした。
でも、抜けない。土が硬い。石が多い。何よりも、タンポポの根の力が強すぎる。まるで地球とたたかっているような感覚だ。
「うーん。どうなってるんだ?」
いつも持ち歩いている小型のスコップでさらに掘り、両手に力をこめてもう一度。
ぷっちーん! 抜けるには抜けたが、十数センチで根は切れた。
それにしても見事なものだ。おとなの指くらいあって、店のゴボウに負けていない。
タンポポが直根性であることはよく知られるが、側面のひげ根も個性的だ。自慢の直根で地面の中を突き進み、ひげ根で土をガシッとつかんでいく。だからなかなか、抜き取れない。途中で切れるのは悔しいが、根が残れば株は生き延びる。
花はまだ、思ったほど咲いてない。いつも黄色いじゅうたんを敷き詰めたようになる場所なのだが、どうやらいささか早すぎた。
とはいえ、思い立ったが吉日だ。訪れる時を待とうとすると、やる気が失せる。
全部で3株。根はどれも途中で切れたが、コーヒー数杯分はあるだろう。
花や葉は別の場所で、ひとつかみほど摘み取った。せっかくだから、花茶、リーフ茶、根のコーヒーにして、飲み比べたい。
葉や花はさっと洗って、天日干し。根は5ミリほどに刻み、同じように数日干した。
量が少ないから、乾きも早い。根はフライパンで焙煎したが、焦げ目がつきだすと、なんとも香ばしいにおいが鼻をくすぐる。
孫を呼んで、いざ試飲。
「どうだ、味は?」
「これ、コーヒー? ぼくにも飲めるよ」
コーヒーとはいうが、カフェインは含んでいない。砂糖を入れたのが良かったか、小学5年生にも意外においしいと評価された。
それならと、途中でミルクを少し加える。
「ミルクティーみたいだろ?」
「飲んだことがないから、わかんない。だけど、こっちの方が飲みやすいよ」
リーフ茶と花茶は色も味も控えめで、よくある野草茶の味と変わりない。
コーヒーゼリーもおまけでつくってみたが、見栄えも味も悪くなかった。
でも、ぼくはやっぱり、コーヒーがいい。材料の調達には苦労するけれど。
力が衰える一方のじいちゃんとちがって、孫たちは日増しにたくましくなる。逆にごちそうしてもらえるのは、いつの日か。そんなことも思いながら、コーヒーの最後の一滴を飲みほした。