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タンポポの花茶とリーフ茶、根のコーヒー、おいしく飲めるのはどれ?~じいちゃんの小さな博物記㉓

「春といえばやっぱりタンポポかな」「そして、タンポポなら久しぶりにコーヒーを作ろうと思うのですが」と谷本さん。しっかり乾燥させてつくったタンポポの味は?
『草木とみた夢  牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第23回をお届けします。

谷本雄治(たにもと ゆうじ)
1953年、名古屋市生まれ。プチ生物研究家。著書に『ちいさな虫のおくりもの』(文研出版)、『ケンさん、イチゴの虫をこらしめる』(フレーベル館)、『ぼくは農家のファーブルだ』(岩崎書店)、『とびだせ!にんじゃ虫』(文渓堂)、『カブトエビの寒い夏』(農山漁村文化協会)、『野菜を守れ!テントウムシ大作戦』(汐文社)など多数。

 弥生、3月、春の始まり。ポカポカ陽気に誘われて田んぼ道を歩いていたとき、にわかにひらめいた。タンポポのコーヒーを作ろうと。この前つくってから、かれこれ20年にはなる。

田んぼの脇で見つけたタンポポ。黄色い花で埋め尽くされた景色もいいが、
こうしてぽつんと咲いているのも趣がある

 最初に見つけたタンポポのまわりの土をよけて、うんこらしょっ。根の首あたりをひっつかみ、力まかせに抜こうとした。
 でも、抜けない。土が硬い。石が多い。何よりも、タンポポの根の力が強すぎる。まるで地球とたたかっているような感覚だ。
「うーん。どうなってるんだ?」
 いつも持ち歩いている小型のスコップでさらに掘り、両手に力をこめてもう一度。
 ぷっちーん! 抜けるには抜けたが、十数センチで根は切れた。
 それにしても見事なものだ。おとなの指くらいあって、店のゴボウに負けていない。

やっとのことで掘り出したタンポポの根。ゴボウのような直根からひげ根が生えている。
このひげ根の力も無視できない

 タンポポが直根性であることはよく知られるが、側面のひげ根も個性的だ。自慢の直根で地面の中を突き進み、ひげ根で土をガシッとつかんでいく。だからなかなか、抜き取れない。途中で切れるのは悔しいが、根が残れば株は生き延びる。
 花はまだ、思ったほど咲いてない。いつも黄色いじゅうたんを敷き詰めたようになる場所なのだが、どうやらいささか早すぎた。
 とはいえ、思い立ったが吉日だ。訪れる時を待とうとすると、やる気が失せる。
 全部で3株。根はどれも途中で切れたが、コーヒー数杯分はあるだろう。
 花や葉は別の場所で、ひとつかみほど摘み取った。せっかくだから、花茶、リーフ茶、根のコーヒーにして、飲み比べたい。
 葉や花はさっと洗って、天日干し。根は5ミリほどに刻み、同じように数日干した。

天日干しにしたタンポポの乾燥葉。
お茶にするときには、いくらか刻んで細かくしてからポットに入れる
きれいに洗ったタンポポの根。これだけ見せたら、ゴボウと間違える人がいるかもね
5日かけて天日干しにしたタンポポの根。厚さ5ミリほどに切ってから干したので、よく乾いた

 量が少ないから、乾きも早い。根はフライパンで焙煎したが、焦げ目がつきだすと、なんとも香ばしいにおいが鼻をくすぐる。

量が少ないと、コーヒーミルがなくてもはさみで細かくしてからフライパンで炒れば、
焙煎できる。あらびきコーヒーの感じで仕上げた
このこはく色を見る限り、なるほどコーヒーだ。
お茶ではなく、最初にコーヒーと呼んだ人をほめてあげたい

 孫を呼んで、いざ試飲。
「どうだ、味は?」
「これ、コーヒー? ぼくにも飲めるよ」
 コーヒーとはいうが、カフェインは含んでいない。砂糖を入れたのが良かったか、小学5年生にも意外においしいと評価された。
 それならと、途中でミルクを少し加える。
「ミルクティーみたいだろ?」
「飲んだことがないから、わかんない。だけど、こっちの方が飲みやすいよ」
 リーフ茶と花茶は色も味も控えめで、よくある野草茶の味と変わりない。

摘み取ったまま干した花(左)と、湯にくぐらせてから乾燥させた花
タンポポの花のお茶。煮出していないので色は薄いが、さっぱりした味に仕上がっている

 コーヒーゼリーもおまけでつくってみたが、見栄えも味も悪くなかった。

タンポポコーヒーの一部を使ってつくったタンポポコーヒーゼリー。
ミルクをかけて食べたら、子どもでも抵抗なく食べられた

 でも、ぼくはやっぱり、コーヒーがいい。材料の調達には苦労するけれど。
 力が衰える一方のじいちゃんとちがって、孫たちは日増しにたくましくなる。逆にごちそうしてもらえるのは、いつの日か。そんなことも思いながら、コーヒーの最後の一滴を飲みほした。