「丈夫で開きのよい本を届けたい」シンプルだけど難しい要望にどう応えるか⁉️ 秘密満載‼️ 製本の裏側ばなし【大人の自由研究・ブックアート】
絵本づくりを支えてくださっている、印刷会社さん・製本会社さんの職人技やこだわりの工夫。「縁の下」ならぬ「本の下」の力持ちな皆さんにお話を伺ってみたい…… そんな思いでスタートをした、連載第3回目。
今回はついに、「製本」の現場に初潜入!
ず~っとお邪魔したいと願いつつ……なかなか機会がなかったため、初めて目にするものばかり。
自分の持っている本を調べてみたい……いや、叶うなら大解剖してみたい!! と終始ウズウズ。大興奮の見学でした。
みなさんもきっと、手元の本をじっくり調べたくなるはず……。ブックアートのみなさんのアイデアがキラリと光る、製本過程。ぜひ最後までご覧ください!
★過去の連載はこちら
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第3回 児童書の製本(ブックアート)
お邪魔したのは、児童書から漫画、ダイアリーまで幅広く製本を手掛けているブックアートさん。
ポプラ社の本でいうと、「かいけつゾロリ」シリーズや「おしりたんてい」シリーズのほか、少し特殊な製本を希望する本などでお世話になっています。
今回は、5月に刊行された『おやすみなさいの1分えほん』の製本過程を追っていきます。
この本はおやすみ前の読み聞かせにぴったりなお話を12話収録した、おはなし集。企画のスタート時、製本に関して編集者から以下のような希望がありました。
―子どもが寝ながら読むときを想定して、とにかく開きをよくしたい!
―そして子ども向けの本なので、丈夫な製本にしたい!
単に丈夫にするだけなら、のりをたっぷりつければよさそうですよね。でもそうすると、1ページ1ページがしっかり固定されてしまい、開きは悪くなってしまいます。
ではどうするのか…? そのお願いにも、ブックアートさんはしっかり応えてくださいました。
さて、ここにはどんな工夫がつまっているのか……?
今回は代表取締役社長の小西さんが、秘密を惜しげもなくお話ししてくださっています。
~1~ 本の構造について
工場見学に行く前に……『おやすみなさいの1分えほん』を例に、少しだけ本の構造について解説いたします。
カバーと帯をとって、書籍の本体を見てみると……ざっくり分けると、文章や絵が入った「本文」、そして書籍の顔となる「表紙」、この本文と表紙を繋いでいる「見返し」で構成されています。
さらに「本文」を解体してみると……『1分えほん』ではこんなふうに、11の束に分かれていました。1つの束を「1折」と数えるのですが、「1折」の中に何ページ含まれているかは、折や本によって違います。
ざっくりこの構成を頭に入れていただいたら……工場見学スタートです! それぞれのパーツがどう組み合わされていくかに注目をして、お読みいただけたらと思います。
~2~ 表紙をつくる
こちらは、工場の入り口付近。
印刷された用紙が、印刷会社さんからパレットに載って届きます。
本文用の紙、見返し用の紙、表紙用の紙、それぞれ種類ごとに積み重なっています。
この時点では、紙はまだ1枚の平らな状態なので、本の形にまとめるために本文・表紙それぞれ準備をしていきます。
まずは表紙用の紙について。
今回は上製本(ハードカバー)の本なので、表紙用の紙とボール紙を貼りあわせる工程が入ります。
今回の『1分えほん』だと、このようにボール紙を包み込む感じで貼りあわせます。
上製本の表紙って、本文より硬くて丈夫ですよね。これは、こんなふうに裏側にボール紙が入っているからなんです。
担当の機械はこちら!【機械1※】
※今回、たくさんの機械が登場するのでカウントしていきます。さて、いくつになるでしょう……。
「このボール紙は、表紙のサイズに合わせて、本ごとに用意しています」
そうお聞きしてまわりを見てみると……あ!
ゾロリとおしりたんてい用のボール紙を発見! 次の巻の進行のために、置いてあったようです。
これで表紙の準備はおしまい。パレットの上へ重ねておきます。こうやってこの状態のまま寝かせるのも、重要な工程だそうですよ。表紙にはちょっとこのまま、待っていてもらいましょう。
~3~ 本文用紙を折る
つづいて本文用紙はというと……まず向かうのは、こちらの紙を折る機械です。【機械2】
この折られた用紙一枚分で、先ほどご紹介した「1折」です。
この本は11折で1冊分なので、同じように他の10種類の用紙も折っていきます。
「今作業しているのは、12ページ分印刷されている折です。蛇腹に折った後に、半分に折っています」
平らな状態ではページの向きがバラバラに見えますが、折り曲げるとちゃんと、順番に並ぶようにできているんです。
折り方も、ページ数や用紙の種類によっていろいろあるそうですよ。
折り終わったら、きれいに重ねてぎゅっとプレス。この時、ページの間に入った空気を抜きます。このひと手間が大事。【機械3】
そしたら「折」ごとに重ねて、またパレットへ。次の工程へ向かいま~す。
~4~ 見返しを貼りあわせる
続いて「見返し」と、先ほど折った本文のうち「1折目」&「11折目」を貼りあわせます。
「見返し」は、表紙と本文をつなげる役割を持っているので、一番最初の折と、一番最後の折それぞれに貼りつけるんですね。このあと表紙と組み合わせるために必要な工程です。【機械4】
「このワイヤー(※緑の矢印のところ)にボンドがついていて、ここを本文(※ブルー点線)が通過すると見返しにのりがつき、そののりで本文と貼り合わせる、という仕組みです」
うーん、これは肉眼ではわからないくらい、超特急! できあがるとこんな状態に。
あの速さで、こんなに綺麗に貼れているのが噓のようです!
~5~ 糸綴りで束ねる
さて見返しも貼って、準備ができた本文が次に向かうのは、「糸綴り(いとかがり)」製本をするための機械。まあるくて、かわいい!【機械5】
「糸綴り」製本というのは、縫製の「かがり」と同じで、紙と紙を糸で縫いあわせて製本する方法。なのでこちらの機械はまさしく、ミシンです。
布を縫うミシンと同じように糸を通すボビンが上部にあって、下部のたくさんの針につながっています。
この糸と針を使って、本文用紙を1折1折縫いあわせて束にしていきます。
繰り返しになりますが、『1分えほん』の場合は、11折で1冊分。
いっぱい並んだ針で、1折ごとに糸を通したら、すぐ糸をくるっとループさせて、次の折へ……こうして1折から11折まで繰り返します。
糸と針が1つしかない普通のミシンでも、糸が絡まったりして大変なのに……この針と糸の数! めちゃくちゃ手間がかかっています…!
縫い終わった状態がこちら。11折ずつ束になっていて、縫った糸も飛びだしていますね。
「このままでは、まだ糸でふわっと閉じられただけの状態なので、こんな感じで背をぎゅっとプレスして、背中の角をつぶしておきます。ここは手作業です」【機械6】
時々入る手作業が、きれいに製本するポイントなんですね。
さあ、本文全折と見返し部分が一体化しました。次へ向かいましょう。
~6~ 背の処理
さあ来ました、今回の製本の肝! 「開きやすく・丈夫に」するために、背に処理を施す機械です。ここは特に、ブックアートさんのアイデアが光る場所。
なのでこれより【企業秘密】満載!! しばらく絵で、解説させていただきます。
最初に通過するのは、PURのりゾーンです。【機械7】
このような感じで、本文が「背」を下にして、ローラーの上を通過していきます。ローラー表面にはPURのりが流れていて、ここを通るときにのりが背につくという仕組み。
PURのりとは、つまりポリウレタン製の、のり。熱ではなく、空気中の水分と反応して固まります。つまり、熱に強い!
こののりを塗ったあとに向かうのは「背巻き用紙」を貼り付けるゾーン。【機械8】
先ほどのPURのりを背につけた本文が左から流れてきて、背巻き用紙のロールの上へ。
ここで下から機械が持ち上がり、本の背に背巻き用紙を接着!
用紙はまだ背にくっついただけの状態なので、このあと、背に沿って折り曲げる作業もはいります。【機械9】
実はこのPURのりと背巻き用紙の組み合わせが、「開きやすく・丈夫に」作るために、とっても大事な役割を担っているのです。
「この背中の加工方法は、もともとは『かいけつゾロリ』の製本を、もっと丈夫にしたい、というご相談から生まれたんですよ」
なんと! ゾロリと意外なつながりが。
図書館でも人気のゾロリシリーズには「何度も貸し借りするうちに本が壊れてしまった」「本のページが抜けてしまった」という声をいただくことがありました。
そこで、どうにか丈夫にする策はないものか……とブックアートさんにご相談したところ、編み出してくださったのがこの技術だったのです。
本を丈夫に作るなら、PURのりを使うのが一番。でも普通ののりに比べて乾きにくく、1日余分に時間がかかってしまう……。部数も多いゾロリは、そんなに時間をかけられない!
「そこで考え出したのが、背に『背巻き用紙』を挟むという方法。この結果、のりづけした後にすぐ機械に通してもベタつかず、スピーディーな製本が可能になりました」
今回の『1分えほん』をご相談したときにも、この技術を応用することでスムーズにご対応いただけたのでした。
アイデアの源は、技術の蓄積にあるんですね。
さてこうして無事、折が背でしっかり接着されました。回転ずしのような長~いレール【機械10】に流れていき、たどり着いた先は……。
~7~ 断裁、そして表紙と貼りあわせ
ぷしゅ!ぷしゅ!ぷしゅーーーー! 今度は、とっても迫力ある機械にやってきました。鎌のようなものが、上下前後にスライドしています。これは、「断ち」のための機械です。【機械11】
実はまだこの時まで、ページとページは一部がつながったままになっていました。
なのでここで、天(上)・地(下)・小口(側面)の3方を綺麗にカットして、ぺらぺらとめくれる状態にします。
この機械の刃はとっ~ても鋭利。気持ちがいいくらいスパッ! と切れます。何回かに1回シリコンが出て、鋭利さをキープするように工夫されているそうですよ。
さて、さっぱりしてお次に向かうのは、「角丸」のための機械。【機械12】
未就学児向けの本では、紙の角でお子さんがけがをしないように、こんな風に丸くすることが多いんです。この状態を「角丸」と読んでいます。
そうして整った本文の束がついに……表紙と合体します!
それがこの、巨大な機械。【機械13】上のほうに、先ほど作った表紙がスタンバイしていますね。
早業すぎて、人の目でも、写真でもよくわからない……! 簡単に再現すると、こんな感じだそうです。
うーん、これでずれずに接着できるとは……驚きです!
これで終わりかと思いきや、本はまたベルトコンベアーに乗って、何やら再び、エレベーターのような装置のもとへ……。【機械14】
1冊ずつ、上から互い違いに降りてきて、積み重なっていきます。
そしてちょうどよい高さ(この本の場合は17冊)になったら、最後の増し締めへ。【機械15】
この積み重ねる冊数は、圧力をかけるのにちょうど良い高さになるよう、本ごとに違います。上からぎゅっとプレスされ、見返しと表紙の間の空気を抜く作業を経て……。
じゃーん! これで完成です!!
どうでしたでしょうか。実は途中、もっと繊細な作業をする機械がいくつもあったのですが、あまりに複雑なためいくつか省略をしております……。それでも、全15種類の機械! 多種多様、個性的な機械のオンパレードでした!
~8~ のりの違いについて
ちなみに…今回は、並製(ソフトカバー)の本など、他の書籍の製本も見学させていただきました。
個人的におもしろかったのは「のり」の違い。
先ほどのPURは空気中の水分に反応して固まっていましたが、こちらはホットメルトというのりで、180度まで上げると溶けて、冷えると固まる性質を持っています。(一般的によく使われるのは、このホットメルトのほう)
扱いやすく、安価でできるのはホットメルト。
扱いに工夫が必要で時間もかかるけど、丈夫で開きがよく作れるのはPURのほう。
その本に合わせて使い分けています。
のりの違いを色でもご紹介。
見た目でも、どんな製本をされているか想像できるんですね。
お手元の本の背の部分、みなさんもぜひよーく見てみてください!
~9~ 手作業による製本
さらに、これまで主に機械による製本作業を見てきましたが、実はまだ手作業が必要な本もあります。そのためのコーナーにもお邪魔しました。
手作業が必要なのは、たとえばこんな大型の本やクロス装の本など。
さらに、こんなレトロな機械も発見!
昭和50年代からあるこの機械も未だ現役です。
「100冊くらいなら、慣れてしまえばこの旧式の機械を使って製本するほうが速いんですよ」
これまで見てきた機械より速いとは!? 職人さんの技、恐るべしです…!
ブックアートさんでは、こういった手作業での製本を行える技術者さんは、3名くらいとのこと。この技術の継承も今後大事にしていきたいと、小西さんはおっしゃっていました。
技術と知識の蓄積の上に成り立っている、技術者のみなさんの技。そして驚きのスピードと正確さを持つ機械たち。その両方に支えられていることを、たっぷり学ばせていただいた見学でした。
***ブックアートのみなさま、丁寧なお仕事ぶりを惜しみなくご披露いただき、本当にありがとうございました!***
(文/編集部 上野萌)
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