バッタ釣りにはいいかげんが良い加減?~じいちゃんの小さな博物記⑪
子どものころはギンヤンマのメスを糸で結んで空に飛ばし、寄りつくオスを捕まえたという谷本さん。遊び心も満たすことができる「バッタ釣り」に連れていってくれました。
『草木とみた夢 牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第11回をお届けします。
「バッタ釣り、行こうか」
「釣るの? 手でも捕れるけど」
「メスのにせもので、オスをだますんだ。竿で釣るから、魚釣りみたいだよ」
「へえ、おもしろそう」
メスの疑似バッタで釣れるのは、オスが勘違いして交尾しようとするからだ。
出かけると決めた前日、仕掛けをつくった。手ごろな木片があればよかったのだが、見つからない。そこでちょうど届いた荷物の段ボール箱をばらし、四角い棒にした。色紙・色テープを巻きつければ完成だ。
バッタのからだに合わせて、全部で5タイプ。色は黒、白、緑の3種類にした。白は釣れないという報告が多いが、物は試しだ。
散歩道にあるなじみの場所で、トノサマバッタに出くわした。現地で調達した篠竹(しのだけ)を竿にして糸を垂らし、その先に疑似バッタを付けた。
晴れた日の午後3時。トノサマバッタが張りつく地面のすぐ近くに、そーっと下ろした。警戒しているのか、動きそうで動かない。
大きな複眼だから、目に入らないとは思えない。「メスがここにいるよ」と認識してもらうために、ちょんちょんと小刻みに動かした。魚釣りでいえば、疑似餌を使うルアーフィッシングみたいなものだ。
ところが、疑似バッタが少しでも動くと、パッと飛んで逃げる。
バッタには恵まれた日で、ショウリョウバッタ、イナゴ、ツチイナゴ、オンブバッタと次々に獲物が現れたのに、申し合わせたように毛嫌いする。孫を見ると、やはり苦戦している。追いかけ追いかけ試しているが、どの色、どのサイズにもかからない。
「こんなに難しいの?」
「いやあ、うーん、おかしいなあ……」
実をいうと、意外だった。過去には何度も、現地調達した仕掛けでちゃんと釣っているからだ。
バッタがいて釣る気になったら、その場にある手ごろな木の枝、木質化した草の茎などをポキンと折って、仕掛けにした。いつも持ち歩く糸に結んでオスの近くに投げれば、パッと飛びついてくれたものである。
飛び乗ったら、しばらくは離れない。何か行動を起こすわけでもなく、しがみついたまま。じっとしているから、容易に手でつかめる。
釣ったものはその場に返した。それがバッタ釣りのルールだろう。
今回の失敗の原因はなんだろう。疑似バッタのサイズや色、天気、時間、バッタの個性? 段ボールだと軽すぎて、風が邪魔をした? いずれにせよ、下手な準備をするより、そこらに転がる枝の方がずっとだましやすい気がしてきた。思い通りにはならないものである。
「まあ、釣れない日もあるさ。それより、何事もやってみることが大切なんだぞ」
人生訓めいたせりふを口にしたのだが、声が風に流されたのか、孫は何も言わない。
この日のバッタと同じ反応だった。