シュールすぎるごりら(?)の絵本『いちごりら』がうまれるまで
6月の新刊絵本『いちごりら』。発売から10日で重版がかかる、という
異例の早さで話題を呼んでいる本作の誕生秘話を担当編集小堺が語ります。
『いちごりら』というタイトルの通り、表紙には頭がいちごになったごりらの姿が。目が合うとドキッとするほどのインパクト!
作者は絵本『あみあみあみちゃん』(ポプラ社)や中学年向け児童書『およぐ!』(文研出版)を手がける麻生かづこさん、絵は『めんぼうズ』(アリス館)でようちえん絵本大賞を受賞されたかねこまきさんです。
いちごの すきな ごりらさん
いっぱい いっぱい たべたらね
いちごりらに なっちゃった!
作者の麻生さんからお原稿をいただいた時、「動物」と「くだもの」の言葉合わせという極めてシンプルな展開なのに、リズミカルな言葉と繰り返しの絵変わりが楽しい絵本になりそうだと思いました。
麻生さんに話を聞くと、知り合いに絵をつけてもらい読み聞かせをしたところ大盛り上がりだったそう。動物とくだものの組み合わせがわかると、次のページに現れる言葉を想像し、「ぶどうさぎ!」と子供たちから先に声があがるというのです。
愛らしい絵がつけば、それはそれで一つの形になりそうです。
でも、繰り返しで先が読めるからこそ、想像をうらぎるようなインパクトのある絵がついたら……! と思いました。
絵本のコーナーに「なにこれ?」と言われるようなシュールな表紙が突如として現れたら面白いだろうな、とひとりほくそ笑みながら、担当小堺は早速、以前から気になっていた『めんぼうズ』のかねこまきさんにお声がけしてみることに。
かねこさんも、「人様の文章に絵をつけることは初めてだけど挑戦してみたい」と快くお引き受けくださいました。
まもなくして、かねこさんがあげてくださった絵は、幼児絵本らしいビビッドでラインのはっきりした絵でした。
絵のタッチは想像していたものと違うけれど、これはこれで愛らしい。
「すいかば」のビジュアルも、なんて楽しいんだろう。
私はいただいた絵をダミーにして、本になった姿を想像しました。
でも……と考えなおしました。いや、いや、ちがうんだ。なぜ「めんぼうズ」のかねこさんに依頼したのか、思い出そう!! 我に返った私は勇気を振り絞り……、
「す、すみません、こういう絵ではなく……」
恐る恐る申し上げると、かねこさんはすぐに理解してくださり、一言。
「本当にいいんですか、大丈夫ですか」
と言いながら、即座にかねこさんテイスト全開の絵をあげてくださったのです。
「そう、これです!!」 かねこさんの描く動物たちの、一見クールな表情に秘められたさまざまな感情が、このシンプルな展開とマッチしている、と嬉しくなりました。
場面ごとの細かい設定は、作者の麻生さんにその都度確認をとっていきますが、「絵のことまで想像して書いてないので自由にどうぞ!」という何ともすばらしく大らかな麻生さんの言葉に、かねこさんものびのびと自由に設定を考えてくださいました。
かねこさんとのやりとりはとても楽しく、データを開くたびにボンッ!と現れるインパクトありすぎな動物たちに毎回笑わせられる担当小堺でありました。
出てくる動物たちの選定も、当初の原稿から大きく変わりました。
「かきつね」や「きういるか」といった候補が外れ「もももんが」がメンバー入りを果たしました。
表紙案もたくさん出していただき……
私のパソコン周りは、かっこよすぎるゴリラたちで溢れることになるのです。
会社のコピー機や校正台に置かれた変身動物たちのプリントに、社内の人も素通りできない様子でした。
なかでも、表紙の「いちごりら」と同じくらい強烈なインパクトを残したのが、ラストに出てくる「ばなな」+「女の子“ななみ”」=「ばなななみ」です。
「ばなななみ」の第一印象は、静的な美しさがあり、まるでルネッサンス期のラファエロが描く天使のようでした。
大学でポルトガル語を専攻していたかねこさんと、スペイン語専攻だった担当小堺。ヨーロッパの宗教画に通じるばなななみの静謐さに、「これはもう、お守りとして欲しくなる強さがありますね。ストラップやガチャガチャなんかになりませんかね、あったら欲しい」と静かに盛り上がりました。
かねこさんの猛威の本画製作期間が終わると、今度はデザイナーさんの番。
ガラパゴの伊藤紗欧里さんにお願いすると、表紙にこんな注文が。
「妄想が膨らんでしまいまして、額縁をかねこまきさんに別版で描いていただき、表1がいちごりらの肖像画のようになっているとおもしろい効果がでそう…と思いました。かねこまきさんのWEBサイトを拝見したら、不思議な静謐さや気品が漂う絵も多いのですてきに描いていただけそうだなと」
イメージの金の枠も添付されていました。
かねこさんにすぐさまご相談したところ、なんと、
いちご模様が彫られた木枠の額を描いてくださいました。ここまでくると、もう気づいた人だけが嬉しい喜びです。
ここには敢えて描きませんが、見返しやばなななみのワンピースにも、いろいろな遊びが隠されています。
出来上がった見本をお届けした時、作者の麻生かづこさんの「絵でこんなにもイメージがかわるなんて」という言葉と微笑みが忘れられない担当小堺でした。
みなさまもぜひ、本をお手に取って、シュールないちごりらワールドをお楽しみください。
(文・担当 小堺加奈子)