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「私ってなにも知らないな」と痛感した本づくりの話。
2023年10月、『歴史で読み解く!世界情勢のきほん』という新書が刊行されました。著者は、池上彰さん。
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本書は、インド、中国、ロシアなど、それぞれの国家の歴史をひもときつつ、各国が世界をどう見ているのかを解説するもの。各国の「本音」を知れば、彼らの行動の背景もわかり、世界情勢が理解できる!というコンセプトの一冊です。
『歴史で読み解く!世界情勢のきほん』は、わたしがはじめて編集を担当した池上さんの単著でした。今回は、その本づくりの過程で感じたことを書いてみたいと思います。
急いで池上さんの本を読んでみた
同僚の転職に伴い、池上さんの担当を引き継いだのは、ちょうど昨年の秋ごろ。大きな声では言えませんが、そのとき、わたしは池上さんのご著書をほとんど読んだことがありませんでした……。
急いで池上さんの本を読んでみることに。まずは、言わずと知れた池上さんの人気シリーズ『知らないと恥をかく世界の大問題』から手に取ってみると、
わかりやすい!おもしろい!
いや、そんなこと知ってるよ、と思われますよね……。
正直に言うと、池上さんの本には、わたしがすでに知っていることが書いてあるのだろうと思い込んでいた気がします。そう高を括っていた気がします。
でも、池上さんの本は、内容が浅いわけではなく、複雑になりがちなテーマを、基本から、難しい言葉は使わずに書かれていました。たとえば、半導体を切り口に経済を解説する章では、そもそも半導体とはなにかということから説明していたのです。
はじめて池上さんの「わかりやすさ」に触れました。
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最初の企画の提案は、撃沈。
これまで、ポプラ社では、池上彰さんと増田ユリヤさんの共著を多く刊行してきました。今回は、ポプラ新書10周年ということもあり、「池上さんに単著をお願いしてみたい!」ということで、はじめて単著をお願いすることに。
打合せの日、どきどきしながら、企画を提案。
しかし、
「そのテーマは、他社からも話があるんだよね」
という池上さんの一言で、あっけなく撃沈。
そうですよね、わたしごときが考えつくようなテーマ、ほかの方も考えますよね……。
ということで、一緒に池上さんを担当している編集者Kさんと一緒に、どういう切り口だったらいいかを、うんうんと考えること約1か月。
2度目の打合せは……
そして、もう一度、池上さんにご相談しようというその日。
朝起きたら、なんか気持ち悪い……。どうやら子どもの胃腸炎をもらってしまったようです。
がんばったら打合せに行けそうな気もしましたが、池上さんに胃腸炎をうつしたら、最悪です。ということで、急遽オンラインで打合せをさせてもらうことに。
オンラインでうまく企画を相談できるだろうか、隣にいる子どもは静かにしてくれるだろうか(子どもも胃腸炎でお休みしていました)など、ぼんやりとした不安を抱えながら、パソコンの前に。
そしたら、なんと池上さんが
「今朝、思いついたんだよね」
と今回の本の企画を提案くださったのです!
本書の各章は、それぞれの国の一人称で始まるのですが、その構成も池上さんが考えてくださったものです。(裏を返せば、わたしはなにも考えていないということ……)
たとえば、1章のインドの冒頭はこんな感じ。
我が国は世界最大の民主主義国だ。そこが中国とは違うのだ。
世界はいつも二大勢力の対立の場になるが、インドは違う。
第三の道を進み、世界にはもう一つの道があることを示す。
インドはヒンズー教ばかりではない。
イスラム教もシーク教も仏教もジャイナ教もある多様な宗教国家だ。
いまやIT先進国として世界をリードするのが我が国だ。
原稿が届かない!
そうして、はじまった今回の企画ですが、なんといってもネックは、
池上さんが忙しすぎて、なかなか原稿が届かない!
ということ。
お会いしたときに、「いま、フランスの章を書いてくださっているんですよね?」などと聞いてみても、
「いま、ゲラ(校正刷り)が手元に3本あるんだよね」
「今日締め切りの原稿があるんだよね」
などと、本当に忙しそう……。
お会いしたときに、スーツケースをお持ちのこともよくあり、国内はもちろん、海外にも出張に行かれています。
移動中もお仕事されているそうで、新幹線で仕事をしようと思ったら、新横浜あたりであっという間に気持ちが悪くなったわたしとは大違い……。池上さん、わたしの何十倍もお忙しいにもかかわらず、本当にお元気です。
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圧倒的に感じる、知識の差!
今回は、1章ずつ原稿をいただいていたのですが、原稿が届くのは夜のことが多く、ちょうど子どもたちを寝かしつけるころ。
原稿が届いた夜、「寝てはならぬ!」とかっと目を見開いて、子どもと一緒に布団に横になっていたら、
「おかあさん、なんで今日は目をあけてるの?」
と子どもから聞かれました。いつもは、自然と目を閉じているようです……。
子どもと一緒に寝てしまわないよう、わたしにしては珍しくがんばり、池上さんの原稿を読みます。
あらためて驚くのは、その知識の量! いや、みなさん十分にご存じだと思うのですが、わたしは毎回驚いていました。そして、痛感するのが、池上さんとわたしの知識の差!
たとえば本文に「ビザンティンの文化」とさらっと出てきても、なんのイメージも沸かないわたし。
池上さんに、説明を2~3文追加していただけますか、と伺うと、「いいですよ」ともちろんおっしゃってくださいました。そして、そのあとに続いた言葉が、
「世界史の授業で習っていることだから、知っているかと思ったよ」
あははは、と笑ってごまかすわたし。世界史の授業でなにか覚えていること、あるかな……。
なんでも答えてくれる池上さん
池上さんとお仕事させていただく役得のひとつが、なんでも池上さんに質問できること。
日本の政治や世界情勢はもちろんのこと、鳥インフルエンザが流行っていたときも、鳥インフルエンザの仕組みについて流れるように説明してくださり、なんでも知っていてすごい!とまたまた新鮮に驚きました。(すごい!と思った内容をなにひとつ覚えていないのが、悲しいのですが……。)
そして、すべての説明がわかりやすい!池上さんとお仕事をご一緒して、それぞれのテーマを本当に深く詳しく知らないと、わかりやすく説明できない、ということを身に沁みて感じます。
『歴史で読み解く!世界情勢のきほん』は、そんな池上さんの知識がぎゅっと詰まった一冊。
これまで歴史に興味のなかったわたしですが、歴史を知ると、ニュースがよくわかるようになる、ということを実感しています。
たとえばフランス。「よくストライキやっているな」ぐらいのイメージだったのですが、フランス革命で人権を宣言した国だから、いまでも自分たちの権利を大切にすること。そして、そのことに誇りを持っていることが、池上さんの解説を読むとよくわかります。
また、インドはITが強いという漠然としたイメージを持っていましたが、池上さんによると、インドがIT大国になった理由のひとつにカースト制度があるそう。
カースト制度は、生まれた階級によって、就ける職業が決まっています。ところがITは最近の職業。カースト制度で定められた職業ではないので、能力があれば誰でも就けるのです。アメリカのIT企業もインド工科大学のキャンパスにリクルートにくるほどで、高賃金も約束されているので、人材がどんどん集まるそうです。なるほど!!
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なんとなく知っているつもりになっていたことも、じつはぜんぜんわかっていなかったということが身に沁みます。でも、知らなかったことを知るのは楽しいなということも、学生時代以来、何十年ぶり(⁉)に実感中。
よろしければ、みなさんも、ぜひ本書で池上さんの「膨大な知識」と「わかりやすさ」を楽しんでいただけたらうれしいです。
文:ポプラ社一般書編集部 近藤純