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はじめて編集を担当した本から教えてもらった大切なこと
「編集者」という仕事に、漠然と憧れがあった。
2023年の4月、ぼくは新卒でポプラ社に入社した。研修を終え、配属となったのは営業部。主に首都圏を中心に書店さんへ伺い、自社の新刊やお店に相性の良さそうな既刊を紹介する仕事をさせてもらった。
書店員さんとお話することは楽しく、学びの多い日々だった。でも、たくさんの本を見る中で、本を作る編集者への憧れは徐々に強くなっていった。
いつかやってみたいな。もしも本当になれたらどんな本を出してみたいだろうか。誰に依頼してみたいだろうか。なんの責任もノルマもない身分だったからこそ、あんな本やこんな本の妄想をしていることが楽しかった。
しかし、ぼくは編集者という存在が具体的にどのような仕事をしているかについて、よく知らなかった。
企画を立てる、著者に書いてもらう、本のデザインを決める…。一年目に配属となった営業の仕事などを通じて、なんとなく~のイメージは分かるが、そこで実際にどのようなことを行っているか、一冊の本が世に出るまでに編集者は一体何をしているのか。
その細部まで妄想できるほど、ぼくには想像力も知識も経験もなかった。
社会人2年目になった今年の4月、ぼくは編集部へ異動となった。
もちろんすごく嬉しかった。だが、どこか地に足がついていないような感覚があった。
一般書企画編集部の名刺をもらっても、とてもじゃないけど「ぼくは編集者です」と堂々と人に名乗ることはできなかった。
※※
異動したばかりの僕は、編集者の勉強も兼ねて、とある書籍企画に参加させてもらうことになった。
タイトルは、『賢人たちのインテリジェンス』。
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ロボット工学者から哲学者、精神科医、数学者…。さまざまな分野の最先端の知を持つ専門家と、作家の佐藤優さんが語り合う、先の見えない時代の道しるべとなるような書籍だ。
著者の佐藤優さんは「知の巨人」と称されるほどの豊富な知識量と鋭い洞察により、ジャンルを問わず数多の著作を世に出されてきた大人気の作家である。
会秩序や価値観が激しく移り変わる現代を、佐藤さんは「激動の時代」と捉えている。そのような時代を生きるために、私たちは自ら考え、行動していかなくてはならない。そのヒントとなることを、各専門家たちの知識や佐藤さんの柔軟かつ分かりやすい対話を通じて、学ぶことができる一冊になっている。
企画に参加させてもらうことになって、さっそく本書にも収録されている吉藤オリイさん(ロボット研究者・株式会社オリィ研究所所長)との対談に同席させていただいた。
対談が始まるなり、吉藤さんが何やら手元でもぞもぞしているな~と思ったら、いつの間にか折り紙でバラをつくり佐藤さんに手渡すというパフォーマンスを披露。(吉藤さんは折り紙が趣味)
その後、吉藤さんが現在開発されているOriHime(オリヒメ)という分身ロボットの話から、バーチャル世界の展望や宗教学など話題は広範囲に及び、そして最後は人の居場所と生きる意味とは何かということについてお二人の意見を語り合う、とても内容の濃い対談となった。
印象的だったのは、佐藤さんの傾聴する様子だ。じっくりと相手を見ながら話している内容に耳を傾ける。そして相手の話を受け止めたうえで、さまざまな角度から話を広げていく…。
第一線で活躍し続けている佐藤さんの知識量の多さ・深さ・広さを、肌で感じさせられた。
そして、一番難しかったのは“質問”だった。
対談のテーマに沿いつつ、読者にとって学びとなる話を引き出す質問…。ぼくは、ちんぷんかんぷんで的外れな質問しかできず、質問力って大事だ…、と思わされた。
そしていざ刊行を目指して企画を進めていくのだが、何しろできないことだらけ。
もちろん先輩に色々教えてもらったうえで取り組んでいるのだが、「知っている」と「できる」には大きな差がある。(偉そうに)
印刷所さんとのやり取りでは、ぼくが「表紙」と「カバー」を同じものだと勘違いしていて、大いなる混乱をもたらした。(すみません!)
赤字の入れ方なんて、もちろん分からない。(恥!)いちいち「改行 校正記号」とかググって赤字を入れていく体たらく。
また、「初校」と「初稿」のどちらが正しいのかは未だにちゃんと分かっていない。
そんな感じなので当初予定していたスケジュールはじわじわと後ろ倒しになっていく。
(あれ、最初はあんなに余裕を持っていたのに…!)
と気付いたときにはすでに時遅し。何か少しでもミスが起きれば、配本日に間に合わないぐらいにギリギリになってしまった。
佐藤さんにもお忙しいなか、かなりタイトなスケジュールでご執筆&ゲラのご確認をお願いすることになってしまった…。(お忙しいのにご対応をいただいてほんとにすみません…)
ぼくの圧倒的な力不足で危機的状況になってしまったのにもかかわらず、みなさんの超迅速かつ超丁寧な仕事のおかげで無事に校了を迎えることができた。
無事に見本が上がってきたときは感動よりもホッとした気持ちの方が大きかった。
「本って一人じゃ作れないんだな…」と、当たり前のことを身を持って感じた瞬間だった。
内容、文章、カバー、物体としての書籍…etc。何一つとしてぼくが生み出したものはない。どれも、佐藤優さんと対談相手のみなさん、そして本書を支えてくれた人たちによって生み出されたものだ。編集担当として一冊の本を世に出すという経験を通じて、ぼくは自分の無力さを知ったし、この気持ちをずっと覚えておきたいとも思った。
かなり多くの人の支えとお力添えのおかげで、無事に刊行することができた。辛抱強く助けていただいて、というか見放さないでいただいて、本当にありがとうございました。
こんな編集後記を書いているということは、本書のクレジットには編集としてぼくの名前が載っているということだ。何をいけしゃあしゃあと…と思ってしまうが、この一冊は反省だらけでも失敗だらけでも初めて編集をさせてもらった本なのだ。
まだまだぼくは自分を「編集者」と言えないが、少しだけ編集という仕事を知ることができた一冊になった。
最後になるが、本書は佐藤優さんが12名の賢人たちと語り合った対談を収録した書籍である。ご参加いただいた方々のバラエティーに富んだ専門知、その面白さを最大限に引き出す佐藤優さんの豊富な知識量によって「もっとたくさんのことを知りたい!」と知識欲が湧いてくる、そんな一冊となっている。
本書を書店で見かけた際には、ぜひ!手に取ってください!よろしくお願いします!
『賢人たちのインテリジェンス』 編集担当 小堀数馬
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強く、しなやかな知性で、激動の時代を迎え撃て!
時代の本質を見抜くために、「常識に囚われない知性」が最良の武器になる―
「知の巨人」佐藤優が、未来を切り拓く「自由な知」を持つ賢人たちと語り合う。
変わりゆくこれからの生き方を探る12の対話集。