茅野太郎と占いの学校3
太郎はカフェのドアを開ける。
「太郎ちゃんおはよう」
「おはよう。トーラさん」
トーラさんと呼ばれた女性は、マッチを擦ってロウソクに火を灯し、白川の長尺線香を焚いた。
ふわり、と甘く濃厚な香りがただよう。
「きょうもおきばりよー」
「はい」
ヴィヴィアンウエストウッドの大判ハンカチを広げる。
そこに8面体サイコロ2つと6面体サイコロを3つ並べ、テーブルのろうそくを手元に置き、店内に満ちる線香の甘い香りをゆっくり吸った。
ろうそくの炎を揺らさないように数分間静かに呼吸する。
マインドフルネス。
意識を己の呼吸とその場の空気に集中する。
店の外まで意識が向く。家路を辿る人の声と車の音。
すると、
ふいに、トーラさんの入れるコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
フッ……とろうそくを意気で吹き消した。
また、マッチを擦り火をつけた。
傍にコーヒーが置かれている。
「五行を整えるのも大事よ」
「そうですね。いただきます」
コーヒーや紅茶、ハーブティーは五行を整えるのに効く。
木から採れるコーヒー豆、コーヒーを入れる水、水を入れるのは金属のケトル、ケトルで沸かすのはガス火。そして、コーヒーを注ぐのは陶器のカップ。陶器は土でできている。
これだけ五行の象意が揃っているものはない。
一口、ブラックコーヒーを口に含む。
感覚を研ぎ澄ますようなガツンとした深い香りと苦み。
今日も頑張れそうだ。
ろうそくを移動させて、ハンカチの上に教科書とノートを開き、勉強を始めた。