『明日に続く光。』
「明日に続く光」に包まれて、僕はココから・・・。
「この写真がいいよ。コレが一番素敵だよ・・・。」
3年前、キミにそう言われて、僕はコンクールにこの写真を出展した。
そしてめでたく一番をとった・・・。
プロのカメラマンになって、2年。
最近では、僕の撮る写真じゃないとイヤだ・・・といってくれる出版社の人もいたりする。
始めての個展の準備も、順調に進んでいる。
でも・・・。
でも、もうキミはいない・・・。
本当はもうずっと前から分かっていたんだ。
僕の中にはもう、描きたい絵がないんだって。
いくら絞り出しても、もう何も描くことができないんだって・・・。
僕は「からっぽ」になったんだって・・・。
だから僕は、絵を描くことをやめた。
そして僕は、筆のかわりにカメラを手にした。
最初の1年は、とにかく撮りたいものを片っ端から撮っていった。
どんなふうに撮ったらいいのかなんて、全然考えないで、とにかく自分の撮りたいものをとり続けた。
2年目は、どんなふうに撮ったらいい写真が撮れるのか、勉強しながら撮った。
昼間は写真を撮りに出かけ、夜は専門書を山積みにした机の前に座りながら、写真についての知識を頭に詰め込んだ。
そして、3年目は、コンクールで一番をとった・・・。
そんでもって今こうして僕は、写真を撮ることを自分の生きるための相棒にしてる。
でも、もうキミはいない・・・。
僕は成功というものを手に入れたと同時に、3つ大切なものを失った。
ひとつめは、自分を見つめる自由な時間。
ふたつめは、絵を描くコト。
みっつめは、キミ・・・。
たぶんこの3つを失って、僕は生活が以前よりもかなり楽になった。
これは失って、プラスになったコト。
で、
この3つを失ってマイナスになったこと・・・。
それはたぶん、心の「からっぽ」が前よりも酷くなったことかな・・・。
でも写真は不思議にも撮れるんだ、すごくいいヤツが・・・。
どーも、写真を撮る心は、僕の中では完全に別な所に存在するみたい。
て、かなり自画自賛かな、これって・・・。
きっとこっちの方が僕には天職だったんだと思うよ、絵を描くことよりも。
「何も絵を描くことを完全にやめなくたっていいじゃない・・・。」
キミが僕に最後に言ったコトバが時々、朝、僕を夢から目覚めさせる。
苦しくなる・・・。
押入にしまい込んでいるスケッチブックが急に恋しくもなる・・・。
だけど、僕はもう絵を描くことはやめたんだ・・・。
そう、もうやめたんだ・・・。
今の僕の仕事は、写真を撮ることなんだ・・・。
でも正直、最近は無性に絵が描きたくてしょうがないんだ・・・。
夕暮れ時のあの場所は素晴らしい。
キミがずっと愛し続けたあの場所・・・。
僕はある休日の夕暮れ時、あの場所にスケッチブックをもって立っていた。
オレンジ色の水面が、穏やかに揺れている。
僕はその光景をしばらく眺めていたら、忘れていたあるコトを思い出したんだ。
「そうだ・・・。僕はまだココの絵を描いていなかった・・・。」
そう思った瞬間から、僕はまた絵を描き始めていた。
もう二度と描けないと思っていた、絵を描きだしていた。
そして出来上がった絵は、写真で撮ったあの場所よりも、あったかく感じられた・・・。
1年後・・・。
「明日に続く光」に包まれながら、僕はあれからココで絵を描き続けている。
もちろん、写真も撮り続けてるよ。
やっと見つけたんだ、僕は・・・。
自分の描きたい絵と、撮り続けたいものを。
「明日に続く光」は、キミのもとへ続く僕の想い・・・。
キミが忘れられない想い出に、きちんとかわっていく・・・。
お元気ですか?
僕は元気です。