登場人物の時間を埋める
今回は、実際に僕が授業でも使用しているテキストを用いて、演技プランを作るための9項目の【役の時間を理解する】の具体的な作業内容について解説していきます。
演技プランを作るための9項目については、コチラの記事を参照してください。
この記事で紹介する準備作業は【登場人物の時間を埋める】という作業です。
組成構造は、登場人物のそれぞれの情報が連動して結びついていくものですが、この作業をすることで、登場人物の状況、状態、相手役との関係性、欲求(目的)、思考、感情の情報をより明確に捉えることができるようになります。
組成構造とは何ぞや? という方は、是非コチラの記事をご覧ください。
登場人物の時間を埋める
今回は、上記のテキストの伝令役を演じることを前提に解説していきます。
脚本に書かれている事は事実である。ということを踏まえて、まずは演技プランを作るための9項目に沿って情報を箇条書き(組成構造を作る)していきます。
・伝令が、着座の間で、御屋形に撤退を進言して、退室を命ぜられる(ストーリーライン)
・伝令が御屋形に撤退を進言する(シーンの変化)
・御屋形、物見に参った本多勢が戦になったこと、見附城が落ちたこと、2万の大軍がこちらに進軍していることを知る(ストーリーライン、シーンの変化)
・伝令と御屋形は主従関係にある(客観的な関係性)
・御屋形の台詞「伝令の分際で〜」とあることから、相当な階級差があると想像できる(客観的な関係性、双方から見た主観的な関係性)
・伝令、息を切らしている(状態)
・御屋形、伝令の報告を聞いて即座に撤退の指示を出さない(状況、思考)
・伝令、進言をする覚悟を決める(シーンの変化、思考、関係性)
・伝令は撤退の命令を出してほしいと願っている(欲求、思考)
・伝令は自分の欲求が叶うかどうかを見届けられない(状況)
・伝令、この戦に負けると思っている(思考)
・伝令、死にたくないと思っている(思考、欲求)
ざっくりと、このような事が本から読み取れると思います。
これらの情報を踏まえて、登場人物がどんな思考と感情で、どのように振る舞うのか、そしてそれらが全て成立するには、どんな人物であるのが望ましいか(キャラクター)を構築していきます。
この時に、時間を埋めるという作業を施すことで、伝令の思考と感情をより明確にする事ができます。
では、時間を埋めるとは、どんな作業なのか。
時間の概念は全部で4種類ありますが、今回は3の短い時間を埋める作業をしていきます。
このテキストのシーンが生まれるきっかけになった出来事から、このシーンに至るまでの時間は、どこの時間を指すのか?
このシーンが存在するためには、伝令が見附城が落ちたことを知り、一本坂にて戦いに巻き込まれ、更に駿河から大軍が押し寄せているという情報を知らなければなりません。
時系列で見ると、恐らく見附城が落ちたことを知るのが一番最初でしょうから、そこからこのシーンに至るまでの時間。
この間、伝令がどう行動し、何を考え、どんな感情を抱いていたかを想像し、埋めていく。
どんな状況で見附城が落ちている様を見たら、伝令は「この戦に負けてしまう」という思考を持ち得るのか。この状況を報告することで御屋形に撤退の命令を出してほしいと願うのか。それを想像する。
また、伝令役を務めるのは恐らく足軽ですから、この時代において、足軽が主君に進言をするという行為がどれほどのものなのか(分不相応な行いをすれば、下手すれば切腹ものです)を鑑みると、自分の命を犠牲にしてもなお進言をする覚悟を持つためには、2万の大軍が攻めてくるということを伝令がどう捉えているのか、この戦の状況をどう受け止めているか。
というシーンに描かれていない部分(つまり、シーンより前の時間)を埋めることで、シーン上の伝令の思考と感情、状況と状態を捉えることができます。
埋めた時間が、シーン上の伝令の思考と感情、状況と状態の根拠になるのです。
大切なことは、伝令の思考と感情は、このシーンの始まりのところで急に湧き出たものではなく、シーンの以前から地続きで存在している、ということです。
シーンの前の時間を埋めておかないと、伝令がどれほどの覚悟を持って進言するのか、戦の状況をどう捉えて行動しているかを表現できないのです。
これを読んだあなたが、楽しく芝居ができるようになりますように。