競争

世の中には古より沢山の争いがある。そしてそれは古来から人類の営みであるから無くなることは無いと論じる人もいる。中でも、戦「争」は人が創り出した最も愚かな行為だと僕は考えているが、世間一般で認知されている争いもある。その一つは競「争」である。
スポーツなどは競争そのものであるし、“負けず嫌い”は勝者に必要なモティベーションと言われることもままある。また、受験戦争や出世争いによって“勝ち組”と“負け組”が分かれるというのも、短絡的な見方からすれば真実かもしれない。

さて、あまりシンクロしない分野であることを承知で、福祉・介護における競争は何かを考えたい。
介護は勝ち負けじゃないから、競争は似合わないよ。相応しくない、と思っているそこのあなた!ホントにそうだろうか。こんな言葉を聞いたことは?

 「○○ホーム、人が少なくって大変らしいよ。ウチより休みが少ないみたい」
 「△△園ってさあ、この前虐待の事件が有ったとこでしょ」
 「××会に行った人に聞いたんだけど、ボーナス4.5ヵ月も出るんだって~」
まずは他施設他法人との比較検討。自分たちよりスタッフへの待遇や利用者処遇が「下」だと思っているところに対して「自分たちはマシ」論。待遇が良いと聞いたところに対してだと「何でウチは」的な羨み、場合によっては自法人の経営陣批判に拡がる場合も。

続いて、施設・事業所内におけるスタッフ間の競争。
 「○×さんの食事介助、時間かかるよねー」
 「◇◇さんの記録って、読みにくくない?」
 「オムツ交換終わったの?早っ。誰?あ、□□さんね。納得」
下手をすれば悪口陰口にもなりかねない部分である。特に作業効率の高い低いが競争のモノサシになる場合が多くみられる。ケアの質をチェックできる部分でありながら、着目されるのは<介護業務>そのもののクオリティではなく<作業>が出来るかどうかの場合が多いのである。残念ながら。

先程、介護に競争は相応しくないと感じている人がいるのでは、的なことを言ったが、僕は片方で同意するし、もう一方では違うと考えている。


まず、介護に競争が必要ないと感ずるのは、スタッフ同士の比較・競争のところで述べたように、作業のスピードについて争う必要が全くないからである。一日かけて入浴介助されたらたまったもんじゃないので、全くないと言ったら語弊があるかもしれないが、常識の範囲で(この“常識”が難しい…)利用者のペースに即した介助を行っていることが望まれているのである。昔の老人ホームでは素早く介助を済ませる寮母さんが「出来る人」とされたものであるが、利用者本位が第一義的に言われるようになった現在ではスピードだけが評価の尺度ではないことを知っておかねばならないだろう。ただ、スピードが求められる場面は今も存在する。訴えや変化を受け、または見つけてから対応するまでの時間である。

さて、介護に競争が必要な場面と僕が考えるのは、ケアのクオリティに関してである。「なぜかあの人が対応したら落ち着いている」「自分が声かけたらいつも拒否されるのに、あの人は上手くできる」という同僚や先輩は居ないだろうか。自分の施設に居ないとしたら、それはある意味残念だが、研修などの機会に見聞きすることも有ると思う。これは決して相性の問題ではない。そこで終わらせていたら専門職としての伸びしろが無くなってしまうので要注意。専門的な知識と技術を持った対人援助技法を駆使して関わっている場面をどれだけ多く見聞きできるかが自分の成長に影響することを知っておいていただきたい。誰もが最初から出来るわけではないのだから、勿論失敗は繰り返す。その中から会得していくのである。要は、自分の中での専門技術を高めるために、周りのやり方と自分のそれを比較して成長の糧としていただきたい、ということである。

それは、もう少し広げると自分の所属する組織の成長、ということに繋がる。「あんな仕事をあんな現場でしたいなあ」と思うような施設があるかもしれない。「でもなあ、ウチは上がダメだし、人も少ないから出来っこない」と諦めの境地で仕事を楽しめないとしたら不幸である。自分を誇大に示し、挙句出来ない理由を組織や周りのせいにして愚痴るばかりの人も世の中には居るが、実に勿体ない。課題が胸にあるのならば、それをどうすれば形にしていけるかを考え、ひとつでも形にしていける人が居る組織は変わっていけるはずである。有言不実行も意味がないし、実行しているようで言葉に敬意をもっていなくては人が付いてこない。他施設よりマシ、と言っているうちはまだまだと思う。

そんな偉そうなことを言ってみても、キレイな女性がパートナーであろう男性と歩いているのを見かけると「僕の方が絶対マシ」と心の中でつぶやいてみるような、煩悩にあふれる僕ではあるけれど。
先日、仕事で車に乗っていたときにラジオから聞こえてきた、ある老舗洋菓子店の方が喋っていた言葉が頭に残っていたので、最後に紹介しておきたい。

『ライバルは常に、自分自身』

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