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福山 ビストロブールブラン ジビエオールスターズ(ドラフト版)

先日訪問したお店のレポート。どう書いていいかここまで悩むことは、あまりない。
それほど美味しく、それほど衝撃的な体験であった。そのため、今回は下書きを残しておきたい。

「味、湧き出ずるもの。加うるに非ず。人間性もまた然り」(斉須政雄)

ビストロブールブランのジビエ料理は旨い。ジビエが好きな方なら、わざわざ福山を訪問し、シェフの「ジビエオールスターズ」を食べるべき、と僕は思う。
(以前の投稿「シェフのジビエ料理は人生の味がする」をnoteに転載したので、ご興味ある方は是非ご一読願います。)

今回のメインディッシュ「真鴨のロースト」は、今まで食べたシェフのお料理と異なる印象を受けた。
ソースは脂分控えめ。付け合わせは真鴨の脂で調理したキャベツのみ。非常にシンプルだった。

これが滅法旨い。改めてシェフの引出しの多さに瞠目したし、同行の友人の一言から、眼から鱗が落ちるような思いに至った。

「理屈抜きに旨い」(某友人)

これよ、これこれ!思わず僕は膝を打った。
人それぞれだが、僕は「理屈抜きに旨い」料理を食べたいんだよね!
最近の流行なのかどうか、料理の説明がやたら長いレストランが多いような気がする。それはそれで在り方なので否定しないが、食べる前から「料理の旨さについて」微に入り細に入り説明されると、食べる前からお腹いっぱいになってしまうこともある。

「真の美というもの、不完全なものを前にして、それを心の中で完全なものに仕上げようとする精神の動きにこそ見出される(中略) 茶室においては、客のひとりひとりが自分自身との釣り合いを考えながら全体の効果を心の中で仕上げていくようにまかされるのである」(『茶の本』岡倉天心著、大久保喬樹訳)

この日そうだったように、食後にシェフに美味しさについて尋ね、教えて頂けるお店の方が、僕は好きだ。

今回のメインディッシュは、ジビエオールスターズだけあって、もう一皿あった。

「エゾジカのロースト あずきビーンズソース」

とんでもなく絶妙な火入れ。鹿肉の素材も良いのだが、素材の持ち味を引き出す火入れに脱帽である。
正直、鹿を食べて美味しいと思ったことは数少ないのだが、優しい旨味でありながら深みがあって、本当に美味しい。
シェフが勤務されたシカゴの世界的レストランのオマージュという、あずきビーンズソースも、粋な味わい。
節分時期にあずきを用い、風味付けにイワシを用いるって、季節感を感じ、本当に嬉しい。

「洗練されたジビエ料理」(某友人)

この日の某友人は、名言のオンパレードだった。だから、食に造詣の深い友人と一緒に美味しいものを食べると、美味しさ倍増なのである。

友人から聞いた「洗練されたジビエ料理」という言葉の意味について、何日もかけてずっと考え続けていた。
ある日、昔読んだ本をめくっていたら、そうそう、これだ!という言葉に再会した。

「口数少なく、こつこつと、とことんやって、すっと引く。何食わぬ顔をして「ぱっ」と置く。
『洗練された味とは仕事を感じさせない味だ』と教えてくれたのは誰だったか。」(『京都の中華』姜尚美著)

シンプルだが深い滋味、素材の組み合わせ、長年の経験に基づく勘所・・・

いま流行りの長い説明より、シェフの皿の上の料理そのものの方が、はるかに雄弁である。

「もの言わぬ『仕事』に心をいっとき、なぐさめられる。その『仕事』をくみとれる人でありたい」(『京都の中華』)

料理は舌や脳で食べる以上に、僕は心で食べるものだと信じている。
『京都の中華』の著者と同じように、僕もまた『仕事』をくみとれる人でありたい。僕の書いてることなんか所詮素人の戯言。どこまで出来るかは別として、美味しいものを頂く度に、そんな儚い思いをいつも願っている。

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