浪速割烹 喜川 〜「浪速の喰い味」の本領を味わう〜
浪速割烹 喜川 〜「浪速の喰い味」の本領を味わう〜
憧れていたお店を訪問。
喧騒の道頓堀から少し脇道に逸れた、法善寺横丁の石畳の傍に佇む。
早めに着いたら暖簾はかかってなく、仲居さんが石畳に水を撒いていた。
浪速割烹 喜川。
「なにわかっぽう・きがわ」と読む。
本来の漢字は、七が三つの「㐂川」である。
先代店主にして創業者の上野修三氏は、浪速料理の研究家・大阪の伝統野菜の復興者としても名高い。
道場六三郎氏と、プロ向けの酒肴のレシピ本を共著もされている。
㐂川は座敷もあるが、カウンター割烹として名高い。
板前が寡黙に仕込みを続ける姿を見て、うまそうな雰囲気を直感した。
ランチのため簡略版ながら、メニューは季節感にあふれたもの。
桜餅を模した先付けからして、春がいっぱいである。
桜餅にかかったあんの味付けも上々。薬味の黄ニラが良いアクセントになっている。
「京の持ち味、浪速の喰い味」と言われるように、大阪の料理は甘さが目立つと思っていたが、こちらの味付けは甘さ控えめであった。
そして名物の「割鮮」。こちらではお造りを「割鮮」と呼ぶ。
「㐂川」では「其々味」と呼び、素材ごとに味付けを変えている。
例えば、タコはバジル酢味噌、炙った金目鯛はあけがらし(ピリリと辛い味噌のような調味料)、マグロはバルサミコ酢醤油ジュレ・・・。
当代店主は、志摩観光ホテルで「料理長自己流」で知られる高橋忠之料理長に師事し、フランス料理の経験も豊富。
和洋折衷のアイディアが上滑りせず、説得力に満ちていた。
広島の銘酒「宝剣」との相性も文句なし。
椀物は、旬のはまぐり。
はまぐりの出汁はシンプルだが心に響くおいしさ。
具材のふきの青くささが、出汁とハーモニーを奏で、心の中に春の風が吹き抜けるようだ。
焼き物は黒めばる。
焼き加減も素晴らしいが、ソースが白眉。
出汁で割った昆布のピューレに、山椒を加えたもの。
口に入れて噛みしめる度に、出汁や昆布の旨みが広がり、山椒の風味が良いアクセントになっている。味わいに奥行きが生まれ、黒めばるの持ち味を、さらにひろげているような気がした。
味付けでおいしさを広げること。これが「浪速の喰い味」か!僕はそう感じた。
楽盛(八寸)も、桜の枝が飾られ、目からも季節感が伝わってくる。
醤油ダレと鰹節の風味が濃厚な筍の炭火焼きは、薬味の木の芽がポイント。
あられを衣にした稚鮎の天ぷらは、肝の苦味がたまらない。銘酒「石鎚」が進む。
いわしのお粥を頂いて、すっかり満喫した。
カウンター越しに、板前のキビキビした動きを眺めながらの食事も、いいものだ。
「浪速の喰い味」の基本を守りながら、自由な発想で進化し続ける浪速割烹。おそるべしである。再訪を期したいと思った。
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