![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/27250264/rectangle_large_type_2_c31a5605bc99647f6e4f721663324df8.jpeg?width=1200)
福山 ビストロブールブラン「シェフのジビエ料理は人生の味がする」
福山「ビストロ ブールブラン」のジビエ料理は、人生の味がする。
ジビエとは野性の鳥獣のこと。野生動物のため肉質が硬かったり、味や香りに独特の癖があったりする場合がある。
そのため、ジビエは臭いというイメージの人がいるかも知れない。はたまた、ジビエの見た目をグロテスクと感じる人もいるかも知れない。
もちろん味の好みは人それぞれである。以上について一概に否定できるものではないし、ジビエが万人受けする食材とも思ってはいない。
けれど「ビストロ ブールブラン」のジビエを味わって、僕は目から鱗が落ちた。
例えば一昨年味わった「スコットランド産雷鳥のロースト サルミ仕立て」。雷鳥は癖がある食材。仁丹のような苦味を感じることが多い。しかも「サルミ」という調理法は、ソースに骨や内臓をも用いる。癖が残って当然だろう。
それなのに「ビストロ ブールブラン」の雷鳥料理は、仁丹のような苦味がない。ジビエ料理ならではのワイルドさ、エロティシズムが伝わってくる。
求心と遠心。品格と野蛮。貞淑と淫靡。
相反する個性の同居。それが「ビストロ ブールブラン」のジビエ料理である。
雷鳥と合わせたローヌ地方のワイン「サン・ジョセフ」との相性も良い。暫く経て、シェフはワインからインスパイアされたソースをひと垂らしした。このソースも素晴らしい。シェフのビル・エヴァンス的なアドリブにも唸らされた。
例えば「べキャスのロースト サルミ仕立て」。昨年友人からお誘いを頂き、憧れのべキャス(ヤマシギ)を味わうことができた。べキャスは「ジビエの女王」とも呼ばれる貴重な食材。一口味わい、海老かアンチョビの如き甲殻類の香りに、驚いた。繊細。噛み締めるほどに奥が深い香りと味わい。
二口、三口と味わうほどに、得もいわれぬ感動で心が満ちていく。高貴さと妖艶さを兼ね備える魔性のジビエ。それがべキャスなのだ。
感動と共に、気付かぬうちに涙がこぼれた。涙が止まらなくなった。食べ物で涙が止まらなくなるなんて、人生のうち何度もあることではない。僕は単に旨いものを食べたのではない。石原慎太郎の小説ではないが、「わが人生の時の時」を噛み締めたのだ。
料理は不味いよりも旨い方が良い。それは当たり前のことだ。しかし、ある一定のラインを過ぎると、贅沢な話だが、旨いだけの料理では満足しなくなる。
皿の上から、そして味の中から、料理に込められたシェフのメッセージを見出したい。そしてメッセージに秘められた文化的背景や、シェフが歩んできた人生をも味わいたいのだ。
かつてノンフィクション作家の早瀬圭一は、鮨職人の石丸久尊が握る鮨について、こう言った。
「尊ちゃんの鮨は人生の味がする」(『鮨12ヶ月』)と。
早瀬さんに倣って、僕も呟いてみたい。
「シェフのジビエ料理は人生の味がする」と。
いいなと思ったら応援しよう!
![街場詩人Hideoの書斎](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/100502842/profile_7f1614fafa448a1c82052026818f9363.png?width=600&crop=1:1,smart)