写真と暗室と私
部屋とワイシャツと私的な。
またまた高校時代の話になるが、留学時代にフォトジャーナリズムの授業を取っていた。
どうやったら印象に残る写真が撮れるか、構図や技法を簡単に勉強した。
そもそもなんでこの授業を取ろうと思ったか、今はもう覚えてない。そんなに写真が好きだった記憶もないし、実際これより前に自分が何かの写真を撮った記憶があまり無い。
たぶん、フォトジャーナリズムという響きがなんとなくかっこ良くて、厨二病を患っていた(今でも後遺症による邪気眼に苦しんでいる)、私にとても響いたのかもしれない。
そもそも何でうちに一眼があったのかはわからないけど、父親のフィルムカメラと望遠レンズを借りて渡米。そのカメラを手に、その辺のものをパシャパシャ撮る。当時接写がお気に入りで、寄りで撮った写真がとても多い。壁に飾ったら結構オシャレかもしれない。
今でこそデジタルのミラーレスを使っているが、フィルムを使い終わった後の巻き取る時間や、新しいフィルムの封を切る瞬間はとても好きだった。このフィルムの中に、どんなものが記録されるのだろう。自分は何を感じて、何と出会うのだろう。
カラーのフィルムも使っていたが、白黒でも多く撮った。
学校には白黒フィルムと写真を現像できる暗室があって、現像用の薬品やプリント用の機材が置いてあった。調合された薬品が切れたら、自分で原液を引っ張り出してきて調合する。10年以上経った今は流石に比率とかは覚えて無いけれど、理科の実験みたいな雰囲気が好きだった。(現像薬の原液は劇薬っぽかったけど普通に扱ってて良かったのだろうか)
暗室に入り、中央に置かれた机の上に現像したいフィルムと、フィルムを開ける器具と、ドーナツ型のフィルムを巻き取る器具と、芯になる棒、それをセットする円筒型の入れ物を用意する。その後電気を消したら、自分の手も見えないような完全な暗闇の中で机の前に戻り、椅子に座る。
電気を消す前にそれぞれの器具を置いた位置を思い浮かべながら、フィルムとオープナーを手に取り、フィルムをこじ開ける。瓶の王冠を開けるように、テコの原理で側面の丸い部分を外すと、中から硬く巻物状に巻かれた生フィルムが出てくる。
このままだと薬品をまんべんなく触れさせられないので、フィルムの端を手探りで見つけ、巻き取る器具にスライドさせて差し込む。
尚、慣れるとスムーズに刺し込めるが慣れないと口が見つからず、電気も付けられない為ここで詰む。初めて現像する前には何度も練習した。
巻き取ったら、空洞になっている中心部分に棒を刺して(一回に2ドーナッツ=フィルム2本分現像できる)、円筒状のケースにそれをしまい、蓋をしっかり閉める。ここまでやって初めて、電気をつけることが出来る。
円筒状のケースは光を通さないが液体を通せるようになっていて、現像液を入れて一定時間撹拌、排出後に停止液を注ぎ更に撹拌。
その後流水で数十秒洗浄。(定着液も使ったような気がするけど忘れた)
ここまでやるとフィルムの現像は完了。取り出して乾燥させる。
ここから感光紙にプリントする場合は、再び電気を消し、焼き付かない赤ライトだけ点ける。フィルムをセットし、機材のスイッチを入れ、自分がプリントしたい大きさに投影。ピントを合わせたら一旦スイッチを止めて、感光紙をセットする。セットしたら再度スイッチを入れ、感光させる。
完了したらスイッチを切り、感光紙を取り出し、現像液に浸す。
ちょっとうろ覚えだけど、感光した絵が出てきたら2液に浸す(多分停止液)。すすぎがあったか定着液を使ったかは覚えてないけど、ここまでやったらプリントが完了する。
https://ja.m.wikibooks.org/wiki/白黒写真の暗室作業
検索したらネットにもっと分かりやすいものがあった。何種類かやり方はあるっぽい。
長々とうろ覚えの現像方法を語り散らしたが、とにかく私は暗室でフィルムを現像し、写真を印刷するのがたまらなく好きだった。
一人でひんやりとした暗室に入るあの感覚。完全な暗闇と静寂の中でフィルムを開ける感触、音、巻き取りの手応え、酢酸の酸っぱいにおい、赤く照らされた機材。現像されたフィルムに写された、過去の自分の視点たち。秘密の実験をしているような、不思議な背徳感。
あの瞬間、あの暗室はきっと、私の世界の全てだった。
あれから10年以上経つが、私は未だに写真が好きだ。撮る頻度自体は減ってしまったけど。
デジタルであれば後からのレタッチも自由自在、撮り直しも気軽に出来る。カメラから直接携帯にデータを飛ばせるし、写真のシェアも簡単だ。
今の方が圧倒的に便利だけど、それでもたまに、あの暗室の酢酸の香りとひんやりとした空気が恋しくなる。それは、失われていく習慣と技術への哀愁なのか、過ぎ去っていった自分の人生への哀愁なのかわからない。だけど、その感情は時々私の胸を優しく締め付ける。
ちなみに、当時と今で言ったら今の方が圧倒的に人を撮っていると思う。むしろ当時はスナップショットは苦手だったし、敬遠していた。
もちろん、単純に人との接点が増えたのもあるけど、他にも自分の中で色々と心境の変化があったからだと思う。
でもそれはまた、別の機会に。
頂いたサポートは美味しいお菓子とお茶代に使わせて頂き、死ぬほど幸せレベル爆上げさせたいと思います。