つまらない人間になりたくなかった
俺たちがこの会社を大きくするんだ!
就職氷河期に苦しみ、自己分析地獄からやっと解放された開放感からなのか、当時まだ内定者だった同期たちは口々に夢を語っていた。
一方私は、そもそも配属先も決まってなくて実務経験も無し、自分がこれから何をやるかわかってもいないのに、自分たちが会社を大きくするって何だ?という割と覚めた目でそれを眺めていた。若干、アツくならない自分カッコいい願望も混ざっていたのかもしれない。でも、少なくとも自分の目の前のことを一生懸命やるだけじゃない?という思いはずっと持っていた。
しかも入社後約1年は販売先の店頭で販売実習。正式な配属がわかるのは12月。悶々とした8か月を過ごした後、やっと発表される配属先。
しかしその直後、幸か不幸か(幸ではないね)新聞に載るくらいの経営危機に陥り、経費削減や早期退職者募集という名の大規模リストラ、給料削減、ボーナスカット、出ては消える事業売却の話、立て直しのために社員一丸となって頑張ろう、という気風もどこか寒々しく、一気に社内の動きが不穏になった。
それと呼応するようにどんどん辞めていく同期。
理由は、会社の経営が不振だから、仕事が面白くない、上司が合わないetc etc....
転職したら年収100万以上増えた…という同期の話を尻目に(めっちゃ羨ましかったけど)、不思議と自分は周りほど真剣には転職の事を考えなかった。
理由その1。自分が配属されていた所は、BtoCが売り上げの主軸となっている弊社の中でも珍しいBtoB部門。今後の伸びしろについても期待されている部門だった事もあり、雰囲気も悪くなかった。
理由その2。当時の上司が結構変わっていて、頭の切れっぷりと何かあるとブチ切れするスピード感、妙なウェットさを持ち合わせる(パワハラタイプとも言う)人で、この人の話とビジョンは聞いていてとても面白かったし、ついて行きたいと思わせる何かがあった。
そして理由その3。とにかく自分で何の工夫もしないのに「面白くない」と、ただ誰かが自分を楽しませてくれるのを口をあけて待つようなツマラナイやつになりたくなかった。そう、あんな大口叩いてた癖に何も成し遂げないままあっさりと辞めていった同期みたいに。
どんなにしょうもない仕事でも、工夫すればやりがいや楽しさは見つけられる。どんな小さなことでも自分の糧にしてやる。そうしないと、きっとどこに行っても同じ事が起きる。結局同じ壁にぶつかり、そこから逃げ続ける人生になってしまう。
そう思っていた。
ちなみに今は少し違った考え方をしていて、同じ苦労をするにしても、同じやりがいを見つけるにしても、人には強みと弱みがある。自分ができない事を無理やりできるようになる為に、より多くの時間と労力を投資してする苦労(しかも結果はそこまで大きくは出ない)よりも、同じくらいの時間と労力を投資して自分が得意な事をやった方が絶対に良いと思う。自分がやりたいもの、目指すものに近づくためにする苦労はいいけど、苦しんで我慢しながら全部の苦労を片っ端から引き受けて回るほど、人生というものは長くない。
そう考えると、あっさりと転職していった同期たちはある意味正解で、私はただ、沈みゆく船の中で震えている逃げそびれたネズミなだけかもしれない。
それでもまぁ、自分がこういう考え方をしていたこと自体は無駄ではないと思うし、これも私の中にあった価値観の一つなのだ。
その時尊敬していた上司はもういないし、今やBtoB部門も不穏な動きを見せている。
一つの価値観を握りしめ続けるのではなく、時代や自分に合わせたアップデートをしていければいいと思う。そんなことを考えながら、自分が目指したい価値観を今日も探していく。