アメリカで穴を掘っていた時の話
前回無事に拾われることになり、新しいホームステイ先へと引っ越す。
今回のホストマザーはおばぁちゃん先生、ホストファザーはしわくちゃの旦那さん。
「引っ越したばかりでね、庭にまだ手を付けられてないんだよ」
そう言われて開いたドア。
その先に広がる、泥の海。
その端っこの方には、吠えまくっている二体の泥の塊。
(犬だとわかるまでに時間がかかった。プードルだっただろうか。)
真ん中にプールと思しき水たまり。
目標は中国系アメリカ人の旦那さんにちなんで、オリエンタルな庭らしい。
正直ちょっとクラクラした。
その日から、少しずつ庭を整えるべく毎日放課後は家具屋さんやらホームセンターに寄りお買い物。片道1時間以上の場所なので、朝も早く、毎回放課後になる頃には死んでいた私。(当時から体力が無い)
余談だが、英語を聞き続けるのに脳の違う場所を使うのか、常に集中し続けるせいかわからないけど、当時は毎日16時過ぎたくらいには物凄く眠くなっていた。睡眠時間もかなり伸びていた。週末も昼くらいまで寝ないと回復しきらなかった。
が、しかし週末は労働のお時間である。
英語が喋れないけどムッキムキのメキシコ人労働者と一緒に、(テキサスは移住や出稼ぎのメキシコ人がものすごく多い。英語が喋れればホワイトカラーの仕事に就けるが、喋れない場合は低賃金の仕事が多かった。)ヤシの木を運んだり、穴を掘ったりする。
ちなみに学校で週末何してたかを話すのは禁止だ。一回友達に”庭仕事”をしてる、と話したところ、授業で話題にされたのかめっちゃ怒られた。(ホストママは絵のクラスの先生)「労働してる」とは言わず「庭仕事」してたって言ったのになぁ。とか、大体週明けって「週末なにしてた?」って話になるんだけどなぁ、とか色々不満に思う事はあったが、学校で家の事を話すのはやめた。まぁ、嫌なのもわからなくはないけど実際それしかやってないから、こっちもある程度は喋るネタが欲しいところ。
さて、肝心の庭について。
当然、オリエンタルな庭にするから鳥居を立てたい。
鳥居がスーパーで買えるなんて、日本に16年くらい住んでたけど知らなかった。しかも組み立て式だ。もちろん、神社にあるような橋も調達。朱色に塗る。
尚、テキサスはとても暑い。基本的に夏は30度を超えるし、お日様もカンカン照りだったと思う。(ドバイにいると気温が40度近くって言ってもあまり異常に感じなくなるのが怖い)
炎天下の中、バラ園の雑草除けシートを張りながら意識が遠のく。
気付いたら普通に庭で寝落ちしていた。どのくらい寝ていたのかは自分でもわからない。とりあえず大分すっきりした。
縄にコンクリブロックを括り付け、縄を引っ張って上下させて溝を作り、硬め、水路を作る。とりあえず荒縄で切れて手から血が滲む。そういえば素手でやってたのおかしいな。
スコップでひたすら穴を掘っていたら、近所に住んでいるホストママの孫とその友達のがきんちょに「なにやってるの?」と聞かれた。
実際なにやってるか私もわからんかった。あの穴、なんだったっけ?池でも掘ってたんだっけ?
ついでに家の内壁も塗った。パステル系の黄色を全体に塗り、金のマーブルになるように塗り込んでいく。ホストママにはインテリアデザイナーになれるよと言われたけど、あんまし嬉しくなかった。壁はめっちゃおしゃれになった。
寡黙でマッチョなメキシコ人とは、言葉は通じないがなんとなく心で通じ合う仲になったような気がした。ちょこちょこ力仕事を手伝ってくれた。
ちなみにグリーンハウスも建てた。こちらもキットが売っている。
一応これらの作業は必ずしも毎回一人きりでやったわけではなく、ホストファミリーも一緒。あ、でも穴は一人で掘っていた。
そうして週末は労働に精を出す一方、私は毎朝きちんと定時に起きれなかったり、部屋が片付けられなかったり、学校で家の話(もちろん、あまりプライベートなところは気を遣って話していない)をしたりしたせいもあり、「一人っ子だから甘やかされて腐ってる」や、「なんでお前に1か月1万円も払わないといけないんだ(たぶん水道光熱費。食費は買い物ついでのマックとか結局ほとんど自分で払ってた。)」、「ガソリン代がもったいないから買い物に連れて行きたくない」、「お前は豚みたいな食べ方をするから見てられない」など、割とモラハラ的なことを言われるようになる。私に1か月1万って言うけど、メキシコ人に1週間で1万払ってるの知ってるぞ!
あと背筋伸ばして食べるせいで全部ぽろぽろこぼして胸の周りシミだらけにしてる自分はなんなんだ。ガソリン代もなんなら払ってやろうか。それに、眠れなくなるからカフェインは摂らないのって飲んでる緑茶、下手するとコーヒーよりカフェイン多いぞ。あとその旦那さん実は6人目だって学校で言いふらすぞ!(離婚は珍しくないがさすがに6人は多い)
マジでネタとして面白いし、手を動かすの自体は好きだったから鳥居を建てたり自体は結構楽しかった。なんとなく可哀想な自分に酔えるのも良かったのかもしれない。
でも実際体力的に結構きつかったし、労働力としての至らなさを指摘されたり、人格否定される筋合いはないと思った。(そらそうだ)
食後の皿洗いも自分の仕事だったし、家の中のシャンデリアのキラキラを一つ一つ拭いたり、まぁ我ながらよく働いた。たまにキレて言い返した様が生意気だったり、自分の部屋はびっくりすほど汚かったのは認めるけど。
留学生は、ホストファミリーがボランティアで引き取ってくれている事もあり、家の手伝いなどは必ずするようにと言われている。なので、皿洗いや料理などはある程度はやる。しかしまぁ、あんなに労働してたのも珍しいだろう。
こうして、庭がどんどん完成に近づいていくのに反比例して、我々の心はどんどん離れていった。
もちろんこのまま終わるはずもなく、今度は私の留学生生活そのものが脅かされることとなる。それはまた別のお話。