研究者のはじめての業績リストづくり~Researchmapを用いたインプット編~
はじめに
このNoteでは、業績リストの効率の良い作り方についてまとめます。わたしは、複数の所属で研究を何年も続けてきました。特に企業の研究職では、大学の公募戦士や研究室主宰者のように、定期的に業績をまとめる機会は多くなく、営利視点と、労力に対して得られる成果のパフォーマンスを考慮して、相対的に学術論文よりも学会発表や特許を重視する場合もあります。また、複数の異なる研究プロジェクトを統括するマネージャーは、自分の専門領域以外にも、業務の必要性に応じて新分野での学会発表を行うケースがあります。そのため、気が付くと、多方面に積み重ねられた自分の業績を振り返って業績リストを創るというハードルは高くなっていきます。
このNoteの対象者
論文・学会発表・特許など、複数のチャネルに対して業績が一定数あり、過去の業績を棚卸したいという方
今後に備えて、業績を定期的に効率的にアップデートしたいという方
全体像
基本的には国内の研究業績(学会発表、論文発表、特許)と海外の論文発表情報の殆どはResearchmapというサービスを使用することで収集可能です。Researchmapで情報を収集した後に、国際学会等の発表情報を入力して補完することで、効率よく業績リストを作成できるでしょう。
この記事では、実際にやってみて困ったことや気づいたことなど、活きた情報をお伝えできるように努めています。後半では、TipsとしてResearchmapの取り込み先のデータベースの拡張方法と、Publish直後の論文情報を取り込み方法についてもご紹介します。
Researchmapとは?
概要
Researchmapとは、研究者が業績を管理発進する専用ページを開設できるデータベース型のサイトです。研究成果として論文、講演・口頭発表、書籍、産業財産権、社会貢献活動などの業績を管理し、発信できます。
登録
Researchmap登録には、e-Rad研究者番号(旧科研費研究者番号)が必要だった(?)ようですが、研究者番号を持っていなくても、新規登録依頼から、doiのついた論文を1つ報告するか、知り合いからの招待メールを受け取ることで登録可能です。企業の研究者は研究者番号を持っていない方が多いと思いますので、論文を1つ報告することで登録することができます。Researchmapに登録すると、数日後にJ-GLOBAL(科学技術情報をつなぎ 発想を支援するサービス)のIDが作成され、J-GLOBAL IDはResearchmapのホーム画面(マイポータル)に表示されます。また、J-GLOBAL側へはResearchmapの情報が受け渡され、J-GLOBAL側で検索した際に”研究者”として検索結果に表示されるようになります。J-GLOBALは、同システムの利用者から連絡を受けることができ、所属が変わっても前の業績に関する問い合わせを受けることができるので便利です。
1.業績取り込み~初級編:Researchmapを使った取り込み~
1-1.概要
それではさっそく、業績の取り込み方法を概説します。Researchmapでは簡単な操作で、マイポータルと呼ばれる自分の情報(経歴や業績など)をまとめたウェブページを開設することができ、研究業績は外部システムからのデータ取り込むことで、簡単かつ正確に登録できます。登録した情報は、JREC-INやJ-GLOBAL、e-Rad等のシステムで利用できます。概要は以下の図を参照すると良いでしょう。
1-2.論文・MISCの取り込み
原著論文とMISCの取り込みは、共通したプラットフォームから取り込み可能であり、現在9つのデータベースからの情報を取り込むことができます。MISCの定義は、分野ごとに異なるようですが、学会発表要旨(Proceedings)や、原著論文と呼ぶまでには到らない査読無しの研究報告などが該当します。また、MISCへ登録した業績は、口頭発表業績リストにコピーできます。
9つのデータ取り込み先をどのように優先するかというところにノウハウが必要になります。ざっくりと特徴をまとめました(私の認識であり、違うよと言うところがあれば、ぜひお知らせください)。
DBLP: 論文用
PubMed:論文用(医学系文献に強い)
ORCID:論文用(登録者のみ、ソース情報に注意)
Web of Science:論文用
CiNii Research:論文/MISC用(和文)
arXiv:プレプリント用
Scopus:論文/MISC用
医中誌Web:医歯薬論文用(Case reportなどに強み)
J-GLOBAL 文献情報:論文/MISC用(翻訳情報に注意)
新井先生は「3(利用者なら)→1, 2, 4→その他(5, 6, 7, 8, 9)」という順の使用を提唱されています。つまり、ORCID利用者は、まずORCIDを取り込み先に選択し、非利用者はDBLP, Pubmed, Web of Scienceから論文を取り込み、続いて日本語論文やまだ取り込めていない論文をその他のデータベースで補完するという流れです。
※ ORCIDの注意点
上記スキームは確かに良いですが、唯一気がかりなのでは、ORCIDが1つの文献に対して、複数のソース(参照元となるデータベース)情報を統合せずに保持しているため、取り込もうとすると1つの文献当たりに複数の文献情報が参照され、どの情報を信頼して良いか分からなくなってしまう場合があることです。実際、私にとってはハードルが高めでした。AIが情報の統合をアシストしますが、完全ではありませんし、似たようなタイトルの論文を発表している場合には、誤った統合を提案してくる場合もあります。また、ORCIDの論文カバー率が完全ではありません。そのため、ORCID利用者は、自身のページを確認し、文献ごとに複数のソース情報を保持している場合には、ORCIDを取り込まないのも手です。もしくはORCID側のソース情報を編集して1つに絞っておくと良いのかもしれません。ORCIDを使用しない場合の第一選択は、1, 2, 4, 7, (9)になります。
個人的には、7. SCOPUS(英語文献取り込み)→5, (9)(日本語文献取り込み)→(6, 8)(もしあればプレプリント等のやCase report等の取り込み)というのがシンプルで良いかなと思っています。
※ J-GLOBALの注意点
J-GLOBALの特徴は英文タイトルを翻訳した日本語タイトルを利用できることです。J-RECIN側のシステムを利用した業績出力においては、英語と日本語を選択できます。その際、J-GLOBAL情報を利用して日本語訳タイトル情報を取り込んでおけば、その情報を用いて業績情報を作成できるのです。一方で、日本語タイトルと英文タイトルを混在した形でまとめることがJ-RECIN側のみでは対応できなくなります(解消方法は次回記事でまとめたいです)。そのため、複数のデータベースから取り込みを行った場合に、どちらの情報を残すかを選択することになりますが、J-GLOBALの情報を優先するかしないかによって、Researchmapの日本語欄の登録情報が変わります。よく分からなかったら、J-GLOBALは日本語文献の取り込みに利用し、他のデータベースとの情報統合の際には、優先順位を下げておくと良いでしょう。
1-3.書籍の取り込み
CiNii Books
から書籍情報を取り込めます。
1-4.共同研究・競争的資金等の研究課題の取り込み
科研費取得状況
から科研費の取得状況を取り込めます。
1-5.産業財産権の取り込み
J-GLOBAL 特許情報
から特許の情報を取り込めます。
感想
業績リストづくりは、自分の再発見だと思っています。自分が何を考えて何をしてきたのかを振り返ることで、自分をよく理解し、未来について再考することができます。
本記事は、実際に紆余曲折して業績リストを作成してみて、気づいたことや苦労したことなど、活きた情報をお伝えできるように、まとめてみたつもりですが、まだまだ勘違いやよりよい方法もあると思います。是非感想や有益な情報をお寄せ頂けたら嬉しいです。
次回は、Researchmapにまとめた情報のアウトプット編です。こちらでもユニークな情報を付与してまとめていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
なお、以降の有料記事では、業績まとめの更なるTipsを扱っています。導入を読んでみて面白そうだったら、是非購読を検討頂けたらと思います。
2.業績取り込み~上級編:データベースの取り込み先の拡張と早期データ取り込み~
上記は実際に私が聞いた民間研究者の声です。上級編では、Tipsとして1.Researchmapの取り込み先のデータベースの拡張方法と、2.Publish直後の論文情報を取り込み方法をご紹介します。
2-1:24のデータベースから情報を取り込む
Researchmapを利用して9つのデータベースからの情報を取り込めると説明しましたが、実は正確ではありません。実は、さらに多くのデータベースからの情報を取り込むことができます。
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