詩 (8月)

秋は死んだ!

池の亀はゆで水に足をばたつかせ
老婆が道端で熱に倒される

モンスーンの熱波が列島に
オセアニアの風を舞わせ

冬将軍の訪れ
暖かさにより増えたプランクトンが
寒さにより数を減らし
サンマの不漁 ナスの不作

春すらも息絶え絶えで
桜だけをマッチポンプで急ぎ咲かす


小雨が山の谷で汗をかく わたしの熱を冷まし
サーモライトで裂けぬ 霧深さと
池で見た 目を突き出して 息を吐く 鯉たち

畳百畳 敷いた中で
同じように息をもらして 浸かる下呂温泉の
とろける肉の上で寝転がるような柔らかさ
血流を活発にし 朝 四肢が粘土のように折れ曲がる

白川郷にすんだ ちちはは
天高くのびる 林の木々
尾ひれをバタつかせ 舞い上がる金色の鯉
みな肉の間で足をすくわれ 転がっていたのだ

だれかのために恋をするわけではなく
だれかのために生きているわけでもなく
きみのために歩いているのでもない

墓の中で 綴じ蓋をされるとき
ただひっそりと 秘密を隠しきれたことに
唇を舐めるだろう

お前のために人をだましたことや
夢のために抱かれたことや
法を超え 愛したこと

だれかのために生きたわけではないのだ
わたしが死ねば地球も消える
       空も溶ける

わたしは本当は一匹の蛾で
ただ鱗粉を求め飛び
掌で潰される大きさにしかない
ひらひら ゆらひら そして眠るのだろう

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