恋人から友人になった話
恋人と別れてしまった。
原因としては私の恋愛の指向になるのだと思う。私は、現時点で、男性と付き合い続けることはできなかった。
勝手なことを言わせてもらうのだけれど、彼のことは本当に好きだ。いくらでも惚気られる自信がある。ただ、そんな最高な人に対して恋愛感情を抱けない自分に耐えられなくなってしまった。
恋人が「好き」と言ってくれた時に、(なんて返そう)と思ってしまう自分のことが嫌だった。彼が向けてくれているのは恋愛としての”好き”なのだろう。けれど私は同じ種類の”好き”を返せない。濃やかな彼のことだ、私の一瞬の空白に気づいていたのだと思う。恋人にそんなことを気づかせてしまう自分が許せなかった。
恋愛と友情をそれほど厳格に分ける必要はないのかもしれない。両者は地続きで、いずれもやがて愛に変わっていくものなのかもしれない。でも自分の中でどうしても、過去と現在を比べることを止められなかった。
片想いをしていた時のこと、彼女と付き合っていた時のこと。そして彼とのこと。違うんだよ。恋人の立場から「好きだよ」と返すことが、嘘をついている気持ちになる。
だんだん、彼と付き合っていることで感じる幸せよりも彼と付き合っていることで感じるしんどさの方が大きくなってしまった。それで、別れを切り出した。
結果として、恋人ではなくなった。
分かっている。傷つけた。あんなに優しい人を傷つけた。自分のセクシュアリティをほとんど理解したうえで告白を受け入れたくせに、結局自分から別れを切り出した。安易に肯定していいことではない。それでも、好きになりたかったんだよ。好きになれるかもしれないと思ったんだよ。
「彼氏/彼女」ではなく「恋人」と言ってくれる人だった。「相手がぽんさんだから気を遣っているわけではなくて、最近は他の場所でも恋人って言うようにしてるよ、決めつけるのは良くないなって」と言っていた。素敵だなって、なんでこの人のこと恋愛的に好きになれないんだろうなって思っていた。
だから今、友人として彼に「好き」と伝えられるようになって心がとても穏やかだ。さみしさはあるけれど、ようやく、あるべき場所に帰ってきたような気持ちだ。こんなにも凪いだ別れの形ってあるんだな。
ひとえに彼のおかげ。性別という、彼にはどうすることにもできないことを理由に別れを切り出すのだから、酷い対応をされても仕方がないと思っていたのに。なぜか一緒に作ったおやつを食べ、駅まで送ってくれて、道すがら恋バナをし、帰り際にまた一緒にカレーを作る約束までした。最近の私たちのブーム、スパイスカレー。
なんなんだあなたは。なぜそんなにも優しいのか。これは夢か?私の脳が作り出した幻想か?冷めているわけではないと思う。別れを切り出してから一週間、たくさん悩んで考えてくれたのだろう。言葉の端々に哀しみがあった。けれど会話の湿度を高めずに、傷つけないように考えてくれたのだと思う。
私にとって、自分たちの適正な距離は恋愛関係ではなかったのだと、別れた今は思えてしまう。だって、私は今の自分の方が好きだ。ただ、彼からもらった言葉、私に優しく触れた指の温かさ、一緒作ったコーヒーゼリーのおいしさ、好きだなと思った数々の瞬間は確かにあって、付き合わなければよかったとは思えない。傷つけたこと、本当にごめんなさい。けれど、どうかあなたが健やかに毎日を過ごせるように願わせてほしい。友人として、そう思っている。
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