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【創作】 洞窟

良くテレビドラマで見かけた手術台の上
死ぬほど光眩しいなとは思ったけど、
意外と僕の心は緊張していなかった

「君は、この先の人生、青色を失うけど、本当に、
…いいの?」
「ええ、構いません」
「ごめんね………」
「いや、こちら側から頼んでいるのにそちら側から謝られると、僕もなんか嫌な気持ちになるのでやめてください」
「ごめんねそれもそっか!じゃ、僕も専門医だから、パパッといっちゃうね!」

僕の左目の眼球はカポッと取られた。
何かしらの蓋を開けた時の気持ちいい感触みたいに

カップ焼きそばの麺みたいに波打った髪型の黒髪セミロングの医者は、この手術をする前のカウンセリングで、本物に見える仮の眼球を入れることをお勧めしてきたけど、その仮の眼球の値段が高すぎて、僕は断った。

左目を失った
"左目"と言うか、
鏡で見ると暗く深いトンネルのようになっている

なので、
"左洞窟"になった僕は、
病院から出た10分後、スーパーに立ち寄り大好きなたい焼きを買う

レジのおばさんは僕をチラ見した程度で、
案外片目を失っても世界は何も変わらない
視力は元々いい方だし
片目でも、1.0は見える
ただ、たい焼きをかじりながら空を見上げると、黒かった。

僕は映画鑑賞が趣味で、
レンタルビデオ屋さんで10円で売られていた大昔のヤクザ映画を観た時に、
「肝臓を売れ!」
「そ、そ、そ、それだけは勘弁してくれやすぅ兄貴ぃ」
なんて台詞も飛び交っていたのを思い出したけれど、今の時代。20人に1人は自分の片方の眼球を、フリマアプリで売っている

電車に乗って、ちょっと混んでいるな
位の人数なら、乗客の1人はどちらか片方の眼球が無く、僕とお揃いの"洞窟"になっている

もちろん、流石に皆セルフで眼球は取れないので病院へ行って医者に軽くカウンセリングしてもらってから取ってもらうのだが。

医学はびっくりするほど進歩している。

片方の眼球を取っても、何かこの世界にある色の、一色だけが見えなくなるという欠点ひとつだけなんだ


ちなみにその売られた眼球は変態の金持ち達が即購入し、眺めてんのかホルマリン漬けにしているのか食べてんのかは良く分かんないし考えないようにしているけど、僕にお金が100万円入ってくる

ウキウキしながらあの医者は言っていたな
貴方様の眼球、出品して3秒で売れましたよ!!
これは凄い!100万円おめでとう!
って、

反吐が出そうだ

多分こんな世界は狂ってる

だけど、僕は社会不適合者だから、お金を稼ぐのはこんな方法しかないんだ。
手術後、不思議なもんで左目に痛みは何もない。
眼球が無いのに。

1歩踏み出す度に僕の胸の奥で何百本も針の付いた鉄のボールが、楽しそうにぴょんぴょんと弾んでいる。何度も血が出て、とっても痛かった
脳や自分の体全体を、圧縮袋で圧縮されているような感覚。こんなに苦しいなら、あの時の手術で心臓を売って、死んだら良かった


でも、僕はそうでもしてお金を稼がないと
行きつけのカウンセリング代が、ないんだ


焼松先生は良い

僕の5歳の頃からお世話になっているカウンセリングの先生だ

焼松先生は世界のなんでもを知っている
そして僕の何でもを優しく受け入れてくれる

ちなみに、眼球の売買は成人してからという法律があるのだが、

僕の母親は、生まれたてでやっと泣いた僕の眼球を医者にすぐに売ろうとした

青と言う名前を付けられた

赤ん坊の眼球は売れないと知った母のその時の感情の色が、青色だったかららしい

ふざけるな

シングルマザーだった16歳の母は僕を産み、
すぐに太った金持ちの男と結婚し、
僕はそのまま流れで孤児院に入れられた

赤子ながら、若いというだけでも価値があるもんなんだなと、母親を見て思った

その孤児院で出会ったのが、焼松先生

笑顔が可愛い焼松先生

おっちょこちょいで、
甘いものが大好きだけど糖尿病の、焼松先生

世間の無くならない男女差別が嫌いで、
自ら自分の股間をハサミでちょんぎった、焼松先生

僕は焼松先生に憧れている

だって、誰に対しても、
僕に対しても、なんの偏見もないから

週に一度のカウンセリングで
僕も善人になりたい
偏見のない人間になりたいから
焼松先生みたいに、股間をハサミでちょんぎりたいですと1度言ってみたことがあった。僕の気持ちは本気だった
焼松先生は、自分と同じ思考を持つ僕というクライアントという存在に、喜んでくれると思った


それを聞くと、焼松先生は少し驚いた顔をしてから
とっても痛いから、やめておきなさい
と僕に優しく微笑んでくれた

焼松先生、焼松先生、
焼松先生に、早く会いたい

僕は今何歳で、季節は今なんなんだろう
自律神経失調症で、体の温度調節ができない僕は、今が何の季節だか、分かんないんだ
こんな話をすると、焼松先生はまた、
笑ってくれるのかな


焼松先生、焼松先生、

僕はその日、孤児院にある黒いソファーですぐ横になった。
焼松先生は今日は孤児院にいなくて、そんなの今日を乗り切れる分の生きていく喜びがないじゃないか!と思い、すぐに寝ることに決めたんだ。時計を見ると、まだ午後の5時だったんだけど。

目を閉じると、確かに僕の左目には眼球の重さが、無い。そう感じる

眠れないので目を開けて、左手の小指を、
洞窟となった僕の左目に入れてみる

不思議な感覚だった

きっと空を飛ぶよりも、うんと不思議な、

僕の心の中で誰かの声で大きく
「死ね!」
って聞こえてきたけど、
何となく焼松先生の声に似ていたけど、
知ってるよ、それでも僕は生きるよ、
だって、僕の好きな色は緑色と赤色

焼松先生の色

焼けるのは火だから赤色だし、
松は緑色だから、

焼松先生の色

その2色さえ見えれていれば、
それだけでいい

空を見る度に僕の首を、
殺す気で心が絞めてきたって、
どうぞ構わない

ただ、もしこれから先偶然出会うかもしれないお母さんの髪色が、青色だった時の可能性のことを考えると、何故か右目から涙がぽつりぽつりと雨粒みたいにまあるく出てきて、それが重力に沿って落ちて、ソファに染みた。思い出した。僕が今いるこのソファの色は、とても鮮やかな青色で、僕が幼少期の頃、一番のお気に入りの場所だったことを。





2ヶ月位前に、短編小説募集のサイトで応募してみた作品です。結果選ばれませんでしたが、この時は休学したてで特に悲しみがでかく、それが創作として、文章として出ているなあと思います。寝よ



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