10年越しのイブ
今回はクリスマスをテーマにした物語を書きました。
AI小説家を目指し、日々さまざまな物語を考えています。
現在、年末年始中に『不倫の代償』を書き上げることを目標にしていますが、自分らしいラストにするか、それともスカッとする結末にするか悩んでいます。
作品が完成次第、記事として公開する予定です。
※この物語は友達ではなく初対面の二人が運命的な出会いを果たし、
その後10年越しの再会を通じて特別な絆を深める物語です。
その間に友情や恋愛を超えた
「特別な約束」
が彼らの心の支えとなり、
再会を経て新たな未来を描いていくというストーリーです。
二人の間にあるのは、
友情とも恋愛とも違う、
特別な絆とも言える感情を描いています。
第1章: 偶然の出会い
駅前のカフェは、
クリスマスイブの夜にも関わらず、
意外と静かだった。
窓の外では粉雪が舞い、
街を柔らかい白で包み込んでいる。
翔はコートのポケットに手を突っ込み、
少し震えながら店内に入った。
「いらっしゃいませ。」
スタッフの声が耳に届くと同時に、
店内の暖かな空気が彼を包む。
カウンターでコーヒーを注文し、
空いている席を探していると、
一人の女性の姿が目に留まった。
窓際の席でノートを広げ、
ペンを走らせている。
彼女の眉間には少し皺が寄っていて、
何かに集中しているようだった。
翔は何となくその席の近くに腰を下ろした。
都会に来るのが初めてで、
慣れない環境に少し心細さを感じていた。
上京前にふと立ち寄ったこのカフェで、
誰かと会話をすることなんて想像もしていなかった。
だが、
不思議なことに、
彼女の雰囲気にはどこか親しみを感じた。
翔はカップを手に取り、
静かに声をかけた。
「何か勉強してるんですか?」
女性は顔を上げ、
少し驚いたように目を見開いたが、
すぐに柔らかい笑顔を浮かべた。
「あ、はい。看護師の資格を取るための勉強をしているんです。」
彼女の声は穏やかで、
耳に心地よかった。
翔は自然と次の言葉を口にした。
「看護師さんを目指してるんだ。すごいなぁ、人の命を支える仕事だなんて。」
彼女の目が輝いた。
「まだ道の途中ですけどね。でも、誰かの力になれる仕事をしたいってずっと思ってたんです。」
翔はその言葉に頷きながら、
自分の夢について語り始めた。
「僕は絵を描くのが好きなんだ。将来は画家になりたいって思ってるけど、正直、どうやって実現させたらいいか全然わからないんだよね。」
彼の言葉に、
彼女は少し考え込むようにしてから微笑んだ。
「それでも、好きなことがあるって素敵だと思います。夢を持つだけでも大きな一歩だと思いますよ。」
二人の会話は止まることなく続いた。
好きな映画や本の話、
夢や不安、
日々の些細なことまで、
話題は尽きなかった。
初めて会ったばかりなのに、
まるで長年の友人のように自然に打ち解けていった。
気が付けばカフェは閉店時間を迎え、
店員が片付けを始めていた。
外を見ると、
雪はさらに積もり、
街灯の光に照らされてキラキラと輝いている。
翔は椅子から立ち上がり、
彼女に向かって微笑んだ。
「今日、会えてよかった。本当にありがとう。」
彼女も立ち上がり、
笑顔を返した。
「私も楽しかったです。こんなに話したの、久しぶりかもしれません。」
その場の雰囲気に背中を押されるように、
翔は少し照れながら言った。
「じゃあ…10年後、またここで会おうよ。クリスマスイブに。」
彼女は驚いたような表情を浮かべたが、
次の瞬間には目を細めて微笑んだ。
「10年後…絶対に忘れません。」
連絡先を交換することもなく、
二人はその場で別れた。
彼女の背中が雪に消えるまで見送った翔は、
少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
彼女、
凜もまた、
カフェを出た後、
降り積もる雪を見上げていた。
真っ白な夜空に、
彼の笑顔が浮かぶ。
「10年後も、きっと忘れない。」
その言葉を胸に刻みながら、
凜は家路についた。
雪が降りしきる街並みには、
二人が交わした約束のように、
静かな希望が満ちていた。
第2章: 別々の道
翔の視点
都会の空気は、
東京の喧騒と冷たさが交錯していた。
翔は毎日、
画家を目指して奮闘していたが、
現実の厳しさにぶつかり続けていた。
大学を卒業して、
いくつかのギャラリーに絵を出したが、
どれも反響は薄かった。
結局、
生活のために始めたアルバイトが本業になり、
夜遅くまで働いては帰り、
また翌日には同じように働く日々が続いた。
翔が目指していたのは、
あくまで絵を描くことだった。
だが、
アルバイト先での仕事に追われるうちに、
気がつけば絵筆を持つ時間は次第に減っていき、
最終的にはほとんど持たなくなった。
休日は友達と過ごすこともできず、
昼間は疲れて寝てばかりだった。
毎月の生活費を稼ぐために、
アルバイトの時間が増えていく中で、
画家としての道はどんどん遠ざかっていった。
そんな中、
あの約束が頭をよぎる。
10年前のクリスマスイブ、
あのカフェで凜と交わした
「10年後、またここで会おう」
という約束が、
胸の中でじわじわと重くのしかかってきた。
翔はその約束を覚えていた。
それでも、
今の自分がその約束に値するのか、
自信を失い始めていた。
「俺が行っても、彼女はどう思うだろう?」
仕事で疲れ果て、
絵の具の匂いも忘れかけた今、
昔の自分に恥じないような立派な画家になっているわけでもない。
むしろ、
もっと不安定で、
自己嫌悪に陥る日々を送っていた。
絵を描くことを心から愛していたはずなのに、
その夢が次第に遠くなり、
今ではその気持ちさえも薄れていった。
カフェの約束が、
翔にとって一層重く感じられるようになっていた。
もし、
あの時の自分を今、
再び彼女に見せたらどう思われるだろうか?
翔は、
10年という時間の重みを感じずにはいられなかった。
そんな中、
ふと携帯電話を手に取ると、
画面に「凜」と書かれた名前が表示されることがあった。
もちろん、
もう何年も連絡を取っていない。
けれど、
何度もその名前を見ながら、
翔は心の中で自問自答を繰り返していた。
「どうしても、行くべきなんだろうか?でも、俺はこのままでいいのか?」
そう思いながら、
彼は仕事の合間に
「10年後」
を計画することもなかった。
約束を守るために、
あのカフェに行くことが本当に自分のためになるのだろうか。
何度も心の中でその問いを繰り返すが、
答えは見つからなかった。
凜が自分を覚えていてくれるのだろうか、
そして、
こんな不安定な自分を受け入れてくれるのだろうか。
翔は、無力感に包まれていた。
凜の視点
凜は、
地元の病院で看護師として働き始めた。
患者やその家族に寄り添う仕事には、
大きなやりがいを感じていた。
誰かの命を守るために、
毎日が忙しく過ぎていく。
夜勤が続き、
日中も患者の対応に追われ、
あっという間に時間が過ぎていった。
仕事の充実感もあれば、
責任の重さを感じる瞬間もあった。
誰かの命がかかっているということは、
想像以上に心に重くのしかかる。
だが、
その一方で、
凜はふとした瞬間に自分の夢がかすんでいるのを感じることがあった。
看護師として仕事に没頭しながらも、
かつて描いていた未来の自分が遠のいていくような気がした。
翔との約束が、
そんな自分を支える唯一の希望だった。
翔との再会を約束したあの時、
凜はまだ学生だった。
その時抱いていた夢を今でも心の中で温めていた。
しかし、
現実は厳しく、
毎日患者や家族のために働き、
やりがいを感じながらも、
どこかで自分の人生が何かを犠牲にしているような気持ちも抱えていた。
恋愛も、
思うように進まなかった。
忙しい日々の中で、
異性と出会う機会も少なく、
ついにその気持ちを忘れてしまう日々が続いた。
それでも、
心の片隅には10年前のあの約束があった。
翔が覚えているかどうかはわからないが、
あのカフェで交わした
「10年後また会おう」
という言葉が、
彼女を支えていた。
それでも、
ふとした瞬間に、
凜は不安を感じることがあった。
翔は今、
どんな生活をしているのだろうか。
画家を目指していると聞いたが、
うまくいっているのだろうか。
それとも、
諦めてしまっているのだろうか。
その時、
自分が翔のことをどれだけ覚えているか、
彼も自分のことを覚えているのだろうか。
「あの日の翔は、どんな人だったんだろう。」
彼女はたまに自問自答しながらも、
心の中でその疑問を抱えつつ、
また毎日が過ぎていった。
「きっと、私も翔も変わっている。でも、10年後に会えることを信じている。」
そう強く思いながら、
凜は日々を精一杯生きていた。
しかし、
心の中で揺れる不安は消えることはなかった。
第3章: それぞれの選択
翔の視点
10年という歳月が過ぎ、
翔の心には複雑な感情が渦巻いていた。
約束の日が近づくにつれ、
心の中で彼は何度もその決断に悩んでいた。
あのカフェで凜と交わした
「10年後にまた会おう」
という言葉。
その瞬間の自分は、
まだ純粋で希望に満ちていた。
だが、今の自分はどうだろうか?
彼は東京で過酷な毎日を送り、
夢を追うどころか、
生活のために必死で働いていた。
画家としての道は夢のまた夢であり、
今やその思いを心の片隅にしまい込むことにしていた。
アルバイトをしながら、
徐々に自分がどんどん小さくなっていくのを感じていた。
10年前の自分が情けなく感じていた。
「10年後、俺は何も変わってない。むしろ、もっと駄目な自分になっているかもしれない」
翔はその思いに沈んだまま、
カフェに行くかどうかを悩んでいた。
彼は過去の約束を守ることができる自分を信じていたが、
今の自分ではその約束を果たす資格があるのか、
疑問が深まっていた。
会社での忙しい日々の合間に、
翔は何度もカフェに足を運ぼうとした。
けれども、
実際にその場所に向かうとなると、
足が重くなり、
心の中で自分を責める気持ちが押し寄せてきた。
彼はどこかで、
もし自分があのカフェで凜を待たせてしまったら、
凜にとって何もかもが無駄になるのではないかと恐れていた。
「もし、あの時のように夢を語っていたら、今でもお互いに夢を追い続けていただろうか?」
そう考えると、
翔の胸は痛む。
凜は今、
どんな姿になっているだろうか。
彼女が想像していた理想とは、
今の自分が追い求めている現実とは違っていた。
その現実に自信を持って、
凜の前に立つことができる自分が想像できなかった。
翔は心の中で、
何度も
「行くべきだ」
と自分を励まし、
また
「自分にはその資格はない」
と自問自答を繰り返した。
結局、
彼は迷いの中で時間が過ぎていくことを恐れていた。
だが、
凜との再会を信じ、
少しずつその一歩を踏み出す覚悟を固め始めていた。
「どんな自分でも、会いに行くべきだ。過去の自分がどうだったかなんて、今、彼女に伝えるべきじゃないか。」
翔は心の中で決心をし、
約束の日が近づいてくるのを待つことにした。
彼は今でも、
あのカフェで凜との再会を信じている。
そして、
彼女にもう一度会いに行くことが、
彼にとっての最大の挑戦だと感じていた。
凜の視点
凜はカフェの準備をしながら、
胸の中でさまざまな思いが交錯していた。
10年という長い時間が過ぎ、
彼女はあの日の約束を胸にずっと生きてきた。
その約束が自分にとってどれほど大きな支えとなっていたのか、
今、
改めて感じることができる。
けれども、
同時に心の中には不安が押し寄せてきた。
「翔は来てくれるだろうか?」
彼女は毎日の忙しい仕事の合間に、
ふとそのことを考えた。
病院では毎日、
患者と向き合い、
命を支える仕事にやりがいを感じる一方で、
プライベートの時間はほとんど取れない日々が続いていた。
その忙しさの中で、
恋愛の時間も、
翔との約束のことも、
徐々に遠のいていった。
ある日、
同僚に言われた言葉が心に残った。
「彼が来ない可能性もあるよ。もう、過去のことは忘れて前に進んだほうがいいんじゃない?」
その言葉は、
凜にとって重くのしかかってきた。
彼女はそのアドバイスに従うべきなのか、
それともあの時の約束を信じて待つべきなのか。
心の中で揺れ動く思いを抱えながら、
彼女はカフェの準備を進めていった。
周りの世界はどんどん先に進んでいく中で、
凜だけが一人、
過去に縛られているような気がしていた。
けれども、
凜は強く決心していた。
もし翔が来なくても、
自分はここで待ち続けると。
10年という歳月を経ても、
あの約束が心に残っている限り、
凜はその思いを大切にしたいと強く思っていた。
「翔が来るかどうかは分からないけれど、もし来てくれるなら、その時は心から笑顔で迎えたい。」
彼女は心の中で何度もその言葉を繰り返しながら、
少しずつその不安を消していった。
翔が再び現れるその時を信じて、
凜は一歩踏み出した。
「10年前のあの約束を、私はまだ覚えている。」
凜はそう強く心に誓い、
再会の準備を続けた。
どんな結果になっても、
彼女は自分の気持ちに素直に生きることを決めていた。
そして、
あのカフェで翔と再び会える日が来ることを信じ、
心の中で彼を待ち続けることにした。
第4章: 再会
雪が静かに降り積もるクリスマスイブの夜、
翔は約束のカフェに足を踏み入れた。
外の冷たい空気と、
店内の温かい雰囲気が対照的で、
彼は深呼吸をしてから一歩踏み出す。
カフェの中はほの暗く、
柔らかなライトが窓際のテーブルを照らしている。
彼が目をこらすと、
奥のテーブルでひときわ静かに座っている凜が見えた。
10年前の面影はそのままだったが、
少し大人びた雰囲気が漂っていた。
凜の髪の色は少し変わっていたが、
その目の輝きや、
彼女が持つ空気は、
まるであの頃と変わらないように思えた。
翔は一瞬、
彼女の名前を呼びたくなる衝動に駆られたが、
少し迷ってから静かに歩み寄った。
その瞬間、
凜も気づいたのか、
ゆっくりと顔を上げて彼の目と合った。
二人の目が交わると、
時間が一瞬止まったような気がした。
心の中で長い間抱えていた想いが一気に溢れ出し、
二人は自然と微笑みを交わした。
「翔……?」
「凜……」
その声を聞いた瞬間、
まるで10年前に戻ったかのような感覚が二人を包んだ。
時間の流れが不思議に感じられ、
まるで昨日のことのように、
あの日の約束が生きていた。
翔は少し照れたように頭をかきながら席に着いた。
「10年ぶりだね。」
「本当に、あっという間だったね。」
お互いに照れながらも、
徐々に会話は自然に流れ始めた。
最初はぎこちなかったものの、
すぐに会話は心地よいものになり、
二人は思い出を語り合った。
翔は少し笑みを浮かべながら、
自分がどんな10年を過ごしてきたかを話し始めた。
「正直、思い描いていた未来とは全然違ったよ。」
翔は自分の内面を素直に打ち明けた。
「画家になるなんて夢を追って上京したけど、気づいたらアルバイトをして生活しているだけの毎日だった。でも、こうして凜と再会できたことが、本当に嬉しいんだ。」
翔の言葉にはどこか悔しさがにじんでいたが、
それを包み込むような優しさが感じられた。
凜は静かにうなずきながら聞いていた。
彼女もまた、
過去の自分と向き合わせられるような気がした。
「私も、いろいろあったよ。」
凜は少し黙り込んでから言った。
「看護師として仕事をしているけど、思ったようにはいかないことばかり。でも、患者さんの命を守ることにやりがいを感じている反面、時々、自分の夢がどこに行ったのか分からなくなる。」
凜の声には、
少し疲れがにじんでいた。
翔はその声に耳を傾け、
彼女がどれだけ頑張ってきたのかを感じ取ることができた。
お互いに、
10年間の間に多くの困難を乗り越えてきたのだ。
「でも、それでもこうして再会できたことが本当に嬉しい。」
凜の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
それを見た翔は、
自分も同じように心が温かくなるのを感じた。
「10年前、君と約束した時、こんな日が来るなんて信じていたけれど、実際に会えたことが、すごく嬉しい。」
翔は静かに頷いた。
「凜、君のことを忘れることは一度もなかったよ。」
その言葉に、
凜の胸が震えるような気がした。
彼女はしばらく黙って、
翔の顔を見つめていた。
言葉がなくても、
お互いの気持ちがひとつになっていることを感じ取ることができた。
翔もまた、
凜の心の中にいる自分を再確認したかのようだった。
「ありがとう。」
凜は静かに言った。
「本当に、ありがとう。」
翔は少し照れたように微笑んだ。
「こちらこそ。君がここにいてくれて、嬉しいよ。」
二人はしばらく沈黙の中で、
ただお互いを見つめ合っていた。
それは、
過去の思い出やこれからの未来について語り合うような、
言葉にならない時間だった。
外の雪は降り続け、
カフェの窓にその白い粒が静かにくっついていった。
その雪は、
二人の再会を祝福するかのように、
優しく降り積もっていった。
「これからも、もっと話したいことがたくさんある。」
凜は少し微笑んで言った。
「だけど、今は、この瞬間を大切にしたい。」
翔はその言葉に頷きながら、
心の中でひとつの約束を胸に刻んだ。
この再会が、
彼らにとって新たな始まりを意味することを、
二人とも感じていた。
カフェの外では、
静かに雪が降り続け、
二人の新たな物語を見守るように、
世界は優しく包み込んでいた。
第5章: 新たな約束
雪が静かに降り積もる中、
翔と凜はカフェの窓際の席に並んで座り、
時折笑いながらも、
どこか少し切ない表情で会話を続けていた。
閉店の時間が近づいてきたが、
二人はそのことに気づいていないかのように、
ただ互いの言葉を交わし続けていた。
10年間、
言葉にできなかった思いが、
次々と溢れ出てくる。
「それにしても、まさかこんな風に再会できるなんて思ってもみなかったね。」
翔は少し照れくさそうに言った。
「うん、私も。本当に…10年前の自分が、こんなに幸せな気持ちになれるなんて思ってなかった。」
凜の目には、
静かに涙が浮かんでいた。
彼女はそれをすぐに拭いはしなかった。
ただ、
翔と目を合わせながら、
心の中で思いを整理しているようだった。
翔は凜のその姿を見て、
胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
10年間、
彼女のことを思い続けてきた。
会えない時間の中で、
彼女の笑顔を何度も思い出し、
いつか再会できると信じていた。
しかし、
今こうして彼女と再会し、
時間が流れるのを感じるたびに、
どこか寂しさを覚える自分がいた。
「凜、もし…もしも、これからもずっと会えなくなったら、どうしようって思ったこともあったよ。」
翔は小さくため息をつきながら言った。
「でも、君がここで待っていてくれて、こうしてまた話せたことが、どれだけ幸せなことかって、改めて感じてる。」
凜はその言葉に、
少し驚いたように目を見開き、
そして優しく微笑んだ。
「翔…私も、そうだったよ。10年後に再会するって、信じていたけれど、実際に会うと、思ったよりも心が震えてしまって、どうしていいか分からなかった。でも、やっぱり…会えて良かった。」
しばらく沈黙が続き、
時計の針が静かに進む音だけが店内に響いていた。
二人はそれぞれに、
過去の出来事を心の中で振り返っていた。
翔は凛との約束を思い出し、
ふと思いついた。
「ねえ、凜。」
翔が少し緊張したように言った。
「次は…10年後じゃなくて、毎年、この日に会おうよ。」
凜はその言葉に驚き、
瞬きながら翔の顔を見た。
彼女の心は一瞬、
言葉を失った。
10年という歳月の中で、
どれだけ多くのことが変わったのか、
二人の間には時間という大きな壁があったこともわかっていた。
しかし、
それでも、
翔の提案は凜の心に温かな光を灯した。
「毎年、この日に…」
凜は涙をこらえながら、
笑顔を浮かべて言った。
「翔、私も…その約束がしたい。10年後じゃなくて、毎年、この日を大切にしたい。」
翔はその言葉を聞いて、
胸が熱くなり、
言葉にできない感情が込み上げてきた。
「ありがとう、凜。君がそう言ってくれて、本当に嬉しい。」
二人はしばらく無言で見つめ合っていた。
その瞬間、
時間がゆっくりと流れているように感じられた。
そして、
ようやく店員が近づいてきて、
閉店の時間を告げると、
二人は席を立った。
カフェを出ると、
冷たい夜の風が二人を包み込んだ。
外の世界はすっかり雪に覆われ、
街の灯りがふわりと幻想的に輝いている。
翔と凜はお互いに手を差し伸べ、
静かに手を繋いだ。
凜の手は少し冷たかったが、
翔はその手をしっかりと握り返し、
温もりを伝えた。
「寒いね。」
凜が小さな声で言った。
「うん、でも…君と一緒だから、全然平気だよ。」
翔は優しく答えた。
二人はゆっくりと歩きながら、
言葉少なにその時を共有していた。
雪はますます激しく降りしきり、
足元に白い絨毯を作りながら静かに積もっていった。
彼らの足跡が新雪に残り、
それを追いかけるように降り積もる雪が、
まるで二人の再会を祝福するように感じられた。
「翔、これからもずっと…一緒に歩んでいこうね。」
凜が小さく呟くと、
翔は頷きながら答えた。
「うん、ずっと。」
その言葉は、
二人の心を確かに結びつけ、
無言で交わした約束のように響いた。
遠くで教会の鐘の音が響き、
夜空には星がひときわ美しく輝いていた。
雪はますます降りしきり、
二人の周りを優しく包み込むように降り続けていた。
まるで世界が、
二人の新たな始まりを祝福しているかのように…。
翔と凜は、
手を繋いだまま歩き続けた。
その背中を追いかけるように、
雪が静かに降り積もり、
二人の新たな物語の始まりを祝っているようだった。
エピローグ
それからの毎年、
翔と凜はクリスマスイブになると必ず会うようになった。
10年前の約束を守るように、
二人はその日を大切にし、
いつも同じカフェで再会を果たした。
初めて会ったあの日のように、
毎年少しずつ変わっていく二人を見守りながら、
時の流れに身を任せることができた。
翔は、
画家としての道を歩むことを諦めず、
徐々に自分の作品を展示する機会を得て、
少しずつ評価を受けるようになった。
仕事の合間に絵筆を握る時間を見つけては、
無理なく描き続けることができるようになった。
そして、
凜は看護師として、
患者やその家族と向き合いながらも、
心に余裕を持って仕事を続けていた。
二人は忙しい日々を送っていたが、
毎年の再会が心の支えとなり、
彼らの関係をより深いものにしていった。
ある年のクリスマスイブ。
凜がカフェの扉を開けると、
雪がしんしんと降り積もる夜の街の中で、
翔が微笑みながら立っていた。
彼はいつものように、
少し照れくさそうに言った。
「お待たせ。」
「翔…今年もまた、会えて良かった。」
凜はその言葉を受け、
心からの笑顔を浮かべながら翔に近づいていった。
この年も、
二人はまたお互いの成長を感じながら、
思い出と共に語り合った。
翔は、
絵を描き続けることでつかんだ小さな幸せや喜びを話し、
凜は看護師として日々どんなに厳しい場面に立ち向かってきたのかを語った。
そして、
毎年の再会が、どれだけ自分たちにとって大切な時間であるかを再確認した。
「ねえ、凜。君と会ってから、僕は少しずつ自分を取り戻せた気がするんだ。」
翔が少し照れながら言った。
「君がいてくれたから、迷わずにここまで来れた。」
凜はその言葉に、
優しく微笑んだ。
「私も同じ。君がいるから、毎年この日が楽しみで、何よりも心が温かくなる。あの日、約束したことが今こうして続いていることが、信じられないくらい幸せだよ。」
二人は静かに目を合わせ、
しばらくその時を共有した。
10年前、
何も知らないまま交わした約束が、
今もこうして続いていることを実感していた。
「次の年も、きっとまたここで会おう。」
凜がそっと言った。
「もちろん。来年も、その次も。」
翔は答えながら、
凜の手を握った。
その日の夜、
二人は雪の降る道を並んで歩きながら、
お互いの手の温もりを感じていた。
何年経っても、
この瞬間だけは変わらないと信じていた。
翔と凜の歩みは、
それぞれの人生の中で交わり、
深まっていった。
そして、
何よりも大切なのは、
どんなに遠くても、
どんなに変わっても、
二人の間に流れる時間が心地よいものであるということだった。
翔は、
10年前の自分を思い返すことがよくあった。
あの頃は、
不安と焦りの中で夢を追い続けていた自分に、
凜と出会うことができて、
本当に良かったと思う。
彼女は、
彼にとって光のような存在であり、
彼を支えてくれた。
一方で、
凜もまた、
10年前の自分を思い返していた。
あの日、
翔との約束を心の中で誓ったあの瞬間、
彼女は確信していた。
どんなに大変なことがあっても、
翔との再会を信じていれば、
自分は乗り越えられるということを。
彼女は、それを今実感していた。
そして、
二人は歩き続けた。
その背中を追いかけるように、
雪は静かに降り積もり、
世界は変わらず二人の物語を見守っているように感じられた。
再会の約束が、
新たな約束に変わり、
二人の心はますます強く結びついていく。
雪が降りしきる夜、
翔と凜はただ一緒に歩き続けた。
その道の先に、
どんな未来が待っていようとも、
二人なら乗り越えられる。
そう、
心の中で確信していた。
それが、
二人の永遠の約束だった。
そして、
二人が手を繋ぎ歩き出す背中を追うように、
雪は降り続け、
静かにその約束を祝福しているかのように、
世界を包み込んでいった。
彼らの歩みはおだやかで、
言葉なくとも心は通じ合っていた。
遠くから見ると、
二人の後ろ姿は雪の中でひときわ温かく輝いているように感じられた。
それは、約束を超えた絆の証だった。
END…………。