掌編小説:魔法の黒いかばん
漆黒のコートをまとい、黒いかばんを手に旅する男。
男の持つかばんは、大層不思議なもので、どんな大きなものでも、そのままの状態でしまっておける魔法のかばんでした。
しかも、命を持ったかばんです。当然話すことなど出来ませんが、持ち主が取り出したい物を理解することができました。
子どもの時にかばんを手にして以来、男は肌身は離さずかばんを持ち歩いてきました。
男はそのかばんで、行商の仕事をしておりました。
かばんも色々な国に旅する暮らしを楽しんでおりました。
東の国で疫病が流行ればワクチンを届け、西の国で戦争が発生すれば大量の武器を持ち込みます。
しかし、その取引で大金を稼いだ男は、強盗に目をつけられ、殺されてしまいました。
強盗はかばんから大金を取り出すと、その場にかばんを捨て、病気の子供のクスリを買いに走って行ってしまいました。
捨てられたかばんを別の男が拾います。その男は難民でした。しかし、異国の地で仕事にあぶれ、困窮しておりました。
男がかばんを開けてみると、そこには黒衣のコートの男の身分証明書と行商許可証が入っていました。
難民の男は悩みましたが、こっそりと身分証明書と行商許可証を懐に忍ばせます。
そしてかばんを川に投げ捨ててしまいました。
川を流れるかばんを次に拾ったのは、この国の幼い王女でした。沢山の護衛を引き連れ、川遊びに来ていたのです。
しかし、拾ったかばんはすぐに乳母に見つかり、護衛に取り上げられてしまいました。
護衛がかばんの中を改めても空でした。安全を確認されたかばんを王女が取り返します。
中を開けてみると、何か入っています。手を差し入れ、出てきたのは、わたあめでした。漆黒のコートの男が子供の時に親に買ってもらい、食べないで取ってあったものです。
それを見ていた周りの大人たちは、そのかばんが魔法のかばんであることに気がつきました。
かばんは、幼い王女からを取り上げられると、その国の国王に献上されてしまいます。
そうしてかばんは、国の宝物庫に大事にしまい込まれてしまいました。
旅する生活を愛していたかばんは、そのまま何年も何年も宝物庫の棚で独り過ごすうち、いつしかその命がすり切れてしまいました。
命を失ったかばんは、その魔法も消えてしまい、ただのかばんとして宝物庫で眠り続けることとなりました。
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