蜘蛛型戦車コバモ #2
照り返す日差しのなか、2学期の始業式も終わり、僕は星凪と一緒に帰っている。
ぬるまった風がとてとてと二人の間をすり抜ける。
彼女とは、転校した小学校で出会って以来の付き合いになる。親友、と言っても良いと思う。
「ねぇ、双波(フタバ)。」
「んー。」
「ニュース見た?」
「何のニュース?」
僕は歩きながら軽く指を振り、VR画面にニュース一覧を呼び出す。
「ああ、これ? タイで生まれた六つ子のパンダの赤ちゃんか。かわいいね?赤ちゃんは何でもかわいいけど、パンダは別格感あるよね。かわいい界のレジェンド的な。」
「違うよ? いや、パンダは私もかわいいと思うけど。確かに殿堂入っちゃってるけど。そうじゃなくて、彗星大接近のニュース!」
僕は改めて彗星のニュースを呼び出し目を通す。
「ああ、あったあった。星凪、好きだもんね、ブラホとか、シシリュウとか。ふーん、でも再接近するのはまだ先なんでしょ? あ、日程出たんだ。へぇー。」
「へぇーって、修学旅行の日じゃん。それと、ブラックホールとしし座流星群を略さない! そこ大事だから!」
腰に手をあて、怖い顔を作ってみせる星凪。
「はーい。本当だ、修学旅行の日だね。凄い偶然だねー。」
「もう、双波ったら。」
そういって結局ケラケラ笑い出す星凪。僕もつられてなんだか楽しくなってしまう。
そのまま下らない話をしていると、いつもの高架下。そこで別れてそれぞれの家に帰る。
「じゃあねー。」
「はーい。双波、明日は学校休みだからねー。」
「おー! ありがとー。」
さすが長い付き合い。僕の事よくわかってるな、と内心感心する。それすらも見抜いたのか、やれやれと首を振る星凪。
僕は星凪にお礼を言うと、家に向かって歩き出した。
ふらふら歩きながら、僕は昔の事を思い出していた。楽しい時間が過ぎた時に、ふと何故か思い出すことがある。反動かな。もしくはこのぬるい風のせいかも。
僕がコバモと初めて出会ったのは、アブダクトされてすぐ後の夢だった。そう、もう今から5年以上前、僕はアブダクトされていたらしい。
ああ、アブダクトって、宇宙人とかに拐われる方のやつ。
アブダクトされた時の記憶は、すっぽり抜け落ちてしまったかのように、何もない。ただ、数日行方不明になり、大騒ぎになっていたらしいと、後から聞いた。
何の手がかりもなく、いくら探しても何も見つからなかったらしい。本当にひょっこり消えてしまったんだって。そして、ひょっこり道を歩いて、普通に帰ってきたらしい。
僕の記憶でも、部屋で寝ていたはずが、次の瞬間、気がついたら夏の日差しの下、家のドアを開けている所だった。
そのあまりの不自然な経緯のせいか、誰ともなく僕はアブダクトされてたんだって、当時はすっかり噂になってしまった。小学生くらいの子供ってそういうの好きでしょ。
実際に何があったかなんて、全くわからないけど、僕自身もアブダクトされてたんだろうなって何となく思ってしまっている。
ほら、無実でも冤罪で疑われ続けると罪をおかした気になっちゃうって。そんな感じ。
当時はすっかり腫れ物に触る、みたいになっちゃって。それで結局引っ越したりと色々大変だったけど。でも、転校したお陰で星凪と出会えたのは良かったと思っている。
5年も立つと、色んな事が、すっかり昔の事になるよね。こうしてぬるい風が吹くと思い出す、思い出。
それ以外に今でも残っているのは、この首の後ろの痣くらいかな。それまでは無かったはずなんだ。
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