がんになったある女性へ、思いを巡らせる
もう10年以上も前、とある会に参加した時のこと。
たまたまその場でご一緒した女性は、がんと診断されたばかりであった。
彼女はこう言った。
「母親ががんだったから自分はがんにならないよう、食べる物には一生懸命気をつけてきたのに。どうしてがんになっちゃったんだろう・・・。」
彼女の悲痛な様子と、この言葉がずっと心に残っている。
そして、もし今のわたしががんに罹患する前の彼女に出会うことができたなら、こう聞いてみたいとも思っている。
「がんが怖いですか?」
「どんなところが怖いと思っていますか?」
って。
こんな質問がしたくなるのは、看護師としてこれまでがん治療の現場に身を置いてきた経験と、心と意識について学んだ経験からである。
病気を含め様々な悩みや問題に対して、物質面と心理面、つまり物心両面からのアプローチが大切だと感じるようになったのだ。
ここからわたしの勝手な推測を書いてみる。
がんに罹患した彼女の発言を聞く限り、がんを予防するための対策はしていたのだと思う。
少なくともがんにならないよう食事には気をつけていた。
ということは、物心両面の「物質面へのアプローチ」はできていたのだと思う。
だけど、物心両面の「心理面へのアプローチ」はしていたのだろうか。
母親ががんになったのを見て「がんにならないように」とがんばったのは、おそらくがんに対して何かしらの恐れを抱いていたからだと思う。
その恐れに対して、彼女自身は寄り添っていたのだろうか。
予防対策に一生懸命になることで、恐れを感じないように置き去りにしてはいなかっただろうか。
もちろん、たとえ物心両面からアプローチしたとしても、必ずしもがんが予防できるとは限らない。
それでも恐れに囚われ、それを原動力に行動していたのなら、きっとつらくて苦しかったんじゃないだろうか。
もしがんに対する恐れを癒すことができたなら、少なくとも心は楽になれたんじゃないだろうか。
彼女ががんに対する恐れを癒せたなら、「これからも健康でいるために」というポジティブな思いを原動力にして行動できたのかもしれない。
ポジティブな思いが原動力だったら、行動も結果もまた違ったものになっていたのかもしれない・・・。
こんな感じでついつい思いを巡らせてしまう。
結局どこまでいっても推測の域を出ないのだけれど。
だけどふと冷静に考えてみると、わたしの人生において彼女との時間はほんの一瞬のことだったのだ。
きっともう会うこともないだろう。
それなのにこうやってわたしの心に波紋を起こしてくれているのだ。
なかなか大きな存在だなぁとしみじみ感じている。
どうか彼女ががんを克服して、幸せな日々を過ごしていますように。そう祈りたいと思う。
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