【短編小説】遅れてきたサンタさん


これは、一人の女の子の幼少期の、小さな小さな宝物のお話です。


寒い寒い冬の日でした。
女の子は病室で、小さな手を温めながら、
喘息の治療の為に入院していました。

病室には、安価なスケッチブックと少ない色鉛筆と、
お母さんが買ってきてくれた早摘みいちごがありました。

夜中だったので、女の子はその早摘みいちごをつまみながら、眠れない夜を過ごしていました。

「いちご、まだ白くて酸っぱいな...」

窓の外では、しんしんと雪が降り積もっています。
お家より少し田舎のこの病院は、夜はどこまでも続くように深く見えました。
今宵は12月25日。クリスマスも過ぎ去ろうとしていました。

女の子は窓の外を眺めていました。
雲がどこまでも分厚くて、雪はまだまだ止む気配はなさそうでした。
暇だったので、女の子は少し窓を開けてみました。

「冷たっ!今日はこんなに寒いんだ...」

そう呟きながら、女の子は夜の雲と雲の切れ間を眺めることにしました。

「ん?」

雲の切れ目から、何かチカチカしたものが見えている気がします。
飛行機でしょうか。こんな天候に?

「何だろう...」

そう呟いているうちに、雲の切れ間から、トナカイにソリを引かれたサンタさんがやってきました。

「わっ!!」

窓枠に足をかけ、サンタさんが許可も取らずに私の病室の窓枠に座りました。

「何するの!?」

女の子はびっくりして、この不思議な状況を疑うことも忘れていました。

「今日は呼んでくれてありがとう。
君が病室にかけてくれていた、靴下の中身を空から見ていたよ。
君の描いたイラストを入れてくれていたんだね。
こんなに嬉しいプレゼントは初めてだよ。
君は何も要らないのかい?」

「私が靴下にイラストを入れていたこと、気づいてたの?」

「もちろんだよ。ずっと見ていたんだからね。
せっかくだから、君のくれたイラストに、サインを入れてくれないか?」

「サインなんて描いたことないよ。うまく描けるかわからないよ。それにサインなんて...私の絵に?」

「僕が君のイラストのファン第一号だ。嬉しいよ。」

女の子は、言われるがままに拙いサインを描きました。

「僕はまだまだプレゼントを配らないといけないから、そろそろ行かなきゃ。
イラスト、本当にありがとう。これは僕の宝物だよ。」

「もう行っちゃうの?」

女の子は、寂しそうな表情になってしまいました。
サンタさんは、女の子の頭を優しく撫でました。

「君が絵を描き続けていたら、きっとまた会えるよ。
君の絵の力は神様からのプレゼントだ。
絵をやめたらだめだよ。じゃあまたね!」

サンタさんはこちらの返事も聞かずに、トナカイの待つソリに乗って、走り去ってしまいました。
女の子は、ぽろぽろと泣いてしまいました。


次の日、起きたらもう朝になっていました。
「あれ...泣き疲れて寝ちゃったのかな」
女の子は、眠い目をこすりながら、昨日の出来事をゆっくり思い出していました。

「あ!靴下の中のイラスト、どうなってるかな」

病室に飾ってあった靴下の中を見ると、やはりイラストは無くなっていました。


新学期が始まり、女の子はまた登園できるようになりました。
女の子は、よく問題を起こす子でした。
「なんで絵にタイトルつけないといけないの?いらないじゃん」
先生は少し困ったような顔をして、聞き返しました。
「何でいらないと思うの?」
「絵で描いたもん。いらないじゃん。」
「自分で考えてみなさい」
先生は厳しくも、優しい目をしていました。


女の子は、登園中も、よくお話をしていました。
季節は秋に移り変わり、池の水たまりは秋の鏡のようでした。
女の子の描くイラストの中の生き物と人物は、いつもお話をしていました。

「どうしてそんなに、やさしいの?」
「それは君が、やさしいからだよ」

女の子の描く生き物と人物は、一つの物語のようでした。

11月が過ぎ、再び寒い寒い冬がやって来ようとしています。

「あ、今年もサンタさんに絵とお手紙を描く時だぁ」
女の子は、机に向かって、絵を描き始めました。



2024.12.24
ponogarden



〜あとがき〜
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。ponogardenです。
この短編小説は、元々絵本にするつもりで書きましたが、私が絵本を書こうとすると、何となくもう絵が入る隙間が無くなってしまうような感じがして、小説という形にしました。
この小説の原型は、私が統合失調症再発時に書いた小説が元ですが、入退院をした後に自分の書いた小説が怖くなってしまい、全部捨ててしまったので数年後リメイクしたものです。
最初作ったものとはかなり形も変わったかもしれませんが、伝えたいことや、大切な部分は同じだと思います。
必要な人に届くと信じて。
世界を勇気づけられると信じて。

ponogarden



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