【ショートショート】草超えて森【口移しサドル】
草超えて森
某自転車置き場にて。
「お前サドルどこにやったんだ?」
首をかしげるボロ自転車に、新品自転車は呟いた。
「知らない人間が持っていったの……」
落ち込む新品をボロは可哀想に思った。そういえば、持ち主がハマっている少女漫画では、ヒロインにイケメンが口移しで薬を与えるシチュが人気らしい。そのマネをすれば、新品のサドルが戻ってきたりしないだろうか。
ボロはちょっと緊張しつつ、新品と距離を詰めた。
「いっ、今から君にサドルを分けてあげる」
「えっ?」
ボロは唇……自転車の唇がどこなのかは分からないが、ともかく唇を尖らせて新品に迫った。新品はキョトンとしていたが、すぐに大口を開けて笑い出した。
「なにそれ! キスでサドルが移せるわけないじゃん! ウケる、面白すぎて草どころか森生える」
ボロは顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
程なくして、新品の持ち主が戻ってきた。そして、呆然と呟いた。
「何でサドルにブロッコリー刺さってるの?」
毎週ショートショートnote
お題「口移しサドル」
文字数409字
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)