【短編小説】役作り
人権団体の代表は異星人の俳優リストを持って、レイバー監督のところへやってきていた。
「レイバー監督、お願いがあります。今回の映画の主演には異星人の俳優を起用してくださいませんか?」
レリポ星では異星人に対する差別をなくそうという活動が非常に活発だ。映画に異星人の俳優を登場させるのもその一環ではあるが、無理のある起用に疑問の声もある。
「……ガルシアをレリポ星人以外の人にやらせろということか?」
そう。そんな中でヒーロー・ガルシアの実写映画化が再度決まったのだ。
ヒーロー・ガルシアはこのレリポ星で最も人気と言えるコミックの主人公。当然、ヒーロー・ガルシアもレリポ星人。ピンク色の肌に筋肉質な肉体が印象的なキャラクターだ。
監督は人権団体の代表が持ってきた異星人俳優の写真付きリストを捲る。角のあるエノ星人、目が三つあるツミー星人、細身で長身なヌマイル星人の俳優もいた。
「彼らはヒーロー・ガルシアのように正義感の強い役が似合う俳優たちです」
人権団体の代表は頬を赤くしながら力説する。レイバー監督は「私も彼らのことはよく知っているよ」と告げた。
「お話が早くて助かりますわ!」
目をぎらつかせた代表は追加のリストを監督の机に乗せた。
「ただ、彼らがヒーロー・ガルシアをやるなら役作りが必要だね」
「役作りですか?」
代表は少し落ち着きを取り戻したらしいが、それも一瞬のことだった。
「何事ですか?」
レイバー監督の助手、ミッシェルが目を丸くする。散乱した本の山から這い出てくる監督に手を貸すと、監督は「たはは」と声を上げて笑った。
「いやぁ、ヒーロー・ガルシア役に異星人の俳優を起用しろと言われてねー」
ミッシェルは本の片付けを手伝いながら話を聞いた。その中にはヒーロー・ガルシアの原作コミックも何冊かあった。
「役作りができるならいいよと言ったら暴れられちゃった」
「何を言ったんですか……」
「ヒーロー・ガルシアはレリポ星人だから、それに近しい外観を作れるならいいよって言ったんだ」
「まぁ、よくある話ですよね。筋肉をつけたりとか、痩せたりとか」
レイバー監督はうんうんと何度も頷いた。ミッシェルは呆れながら言葉を続けた。
「……どうせエノ星人に角を折れとか、ツミー星人に額の目を潰せとか、ヌマイル星人に身長を縮めろとか言ったんでしょ」
レイバー監督は、うんうんと何度も頷いた。
「また、あることないこと書かれますよ」
ミッシェルは本に紛れて落ちていたDVDを手に取る。レイバー監督は声を上げて笑った。
「だーいじょうぶ。分かる人にはちゃんと分かってもらえるから」
それは二年前にレイバー監督が撮影したオリジナルヒーローもので、様々な異星人たちがそれぞれの特徴を生かして怪人と戦うアクション映画だった。
「それだと異星人はヒーロー・ガルシアになれないってメッセージ、とか言われますよ」
ミッシェルはもう一枚のDVDを手にする。十年前に実写映画化されたヒーロー・ガルシアだった。
この映画ではヌマイル星人の俳優がヒーロー・ガルシアを演じて見事にコケた。ヌマイル星人は細身のスラッとした体型だったので、ヒーロー・ガルシアのイメージには合わなかったのだ。人権団体はこれを歓迎したが、原作ファンはそっぽを向いた。
「ガルシアじゃなくてもヒーローにはなれると思うけど、それだとダメなのかな?」
ミッシェルは答える代わりに、DVDを棚にしまった。レイバー監督は答えが来ないことに憤る素振りも見せず、ヒーロー・ガルシアのイメージに合うレリポ星人の俳優をリストアップする作業に入った。