【ショートショート】疑心暗鬼【顔自動販売機】
疑心暗鬼
N氏は顔自動販売機で買った笑顔を装着した。これがN氏の営業必勝法だった。
営業先のS社に到着すると、受付嬢がにこやかに応対してくれた。5階の会議室へ向かうエレベーターでは居合わせた人が笑顔でボタンを押してくれる。
ともかくN氏は笑顔に迎えられた。みんな笑顔なのだ。最初こそ温かな気持ちになったN氏だが、次第に不安になっていった。
「こんにちは、Nさん」
S社の担当も朗らかにN氏を迎え入れる。N氏は応接室に入る瞬間、視界の端に見覚えのある自動販売機を捉えた。
何故気づかなかったのか。自分も顔自動販売機を使っているのなら、相手がそれを使わない道理はない。
「初めまして、私は――」
S社の人が笑顔で名刺を取り出そうとしたその時、N氏は耐えられなくなり一目散に逃げ出した。
さて困ったのはS社の担当。困り果てた彼に、上司は自動販売機で何かを買った。
「そういうこともあるさ」
彼は上司にお礼を言いつつ、缶コーヒーを受け取った。
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お題「顔自動販売機」
文字数410字
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気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)