北海道出張

 Sさんから『北海道に出張するから機材の準備と航空チケットの手配をするように』との指示が来た。いつもの通り詳細の説明は無い。

 私は実はちゃんとした旅客機に乗るのはこれが初めてだ。セスナ、ヘリには何度も空撮で乗ったしビジネスジェットの搭乗経験も何度かあるものの、いわゆる旅客機には乗る機会が無かった。もちろん海外にも当時は行った事が無かった。チケットの取り方から調べているうちに詳細が知らされ、翌週の千歳往復2人分でANA希望、観光パンフレット向けのロケハンでレンタカーも必要であることがわかった。

 諸処の手続きをすませ、機材の準備もしていざ出発。初めてのきらびやかな空港、初めてのジャンボ機のセスナとは違う強力な加速に心踊らせながら羽田を後にした。そしてコトが楽しく進んだのは千歳空港をレンタカーで発ったところまでだった。


 とりあえず美唄を目指せと指示を受け車を走らせる。そして美唄市内に入ったころ、ようやく今回の出張の詳細が知らされる。目的地は芦別で、そこにある観光施設のパンフレットを作る。ただし一般向けのパンフではなく、その施設を外国資本に売却する為の資料的なもの。スチールだけではなくV(ビデオの事)も撮る。その施設はまだ稼働中であり、従業員は施設が売りに出されている事を知らないからロケハンの目的を知られないようにすること...などなど。ビデオカメラはSさんが持ってきた家庭用のハンディカムだ。ロケハンだからそんなのでいいらしい。なんだか雲行きが怪しくなってきた気がする。

 その施設は巨大な観音様の像と五重塔がウリのホテルだった。なんでも巨額の負債が有り、北海道拓殖銀行が破産したのはここの債権者だったのが大きな理由のひとつなんだとか。

 古びた五重塔と以前はモノレールが走っていたであろう錆びた構造物が何とも寂しい雰囲気を醸している。五重塔内は宿泊施設になっていて、他に鉄筋造の宿泊施設もある。私たちは五重塔内に部屋をとり、とりあえず付近の散策に出た。

建物の内部も傷んでいたが外観もかなりひどい。周辺の付帯施設も荒れ、花壇や芝生の丘もひどい有様だ。こんなのが売れるのか? 地下の大浴場に行ってみたら広くて薄暗い浴室に石こう像がたくさん配置されていた。ダビデとかそんな中世をモチーフにしたやつだ。五重塔内にはギリシャ神話の世界があった。そのほか戦国時代の甲冑が数十体も並べられているスペースがあったり、どうにも統一感のない展示があちこちに散らばっている。それもひとつひとつが何だか安っぽいアイテムがカテゴリー毎に大量に並べられているのだ。ひと風呂浴びて宴会場に下りてみる。そこは広大な畳敷の宴会場を囲むように屋台が並び、食べたい物を屋台で購入して座敷で食べるようになっていた。もちろん中居さんが世話を焼いてくれるわけでもなく、料理が運ばれて来ることもない。ステージでは何かのショーをやっているようだが遠くて見えないし、音響が悪くて聞き取れない。マジックショーか何かのようだ。ポスターを見ると翌月に藤あや子さんが来るらしい。一応小型のカメラを持ち歩いてはいたが、Sさんはまだ撮る必要は無いと言う。結局カメラを使ったのは翌朝出発前に30分程周囲を散策したときだけだった。巨大な観音様と廃墟となったモノレールの施設、五重塔の全景くらいしか撮っていない。ビデオに関しては観音様を足下からてっぺんまでゆっくり撮った1分ほどだけだ。はるばる25kgの機材を背負って来たのは何だったのかと。


 このまま帰るのかと思ったら次は帯広に行くと言う。どうにもよくわからない出張だ。