読書記録:人間のしるし
クロード・モルガン『人間のしるし』
夢を語るなら英語で。
愛を語るならフランス語で。
学を語るならドイツ語で。
そんな文句が生まれるほどに、言語にはそれぞれ特質があって、適した思考が存在するらしい。
それならば是非、原書で読みたいものだと辞書のホコリを払って本書を開き、「ラテン語は全て派生語だから、英文法さえしっかりさせれば辞書を片手にスラスラ読める」なんて私を唆した友人を、何度も心の中で呪った。一行ごとに紅茶をすすり、時には行間すら睨んで、のろのろと何とも頼りない足取りで、しかし何とか読み終えた。
主要人物のジャック、ジャン、クレール、彼らはそれぞれに他者へ、社会へ、自分へ沢山の思想と偏見を抱いている。
共通の世界観の中で、妻を永遠に美しい女にさせてくれるジャンの愛。
独立した戦いを支援して、奔放な少女のまま夢を見せてくれるジャックの愛。
どちらがより人間らしく、クレールを愛しているか、だなんて私には判断がつかないけれど。どちらも愛、なんて無責任な言葉で片付けてしまうのは許せない。
読み進める中で、悩むことこそが“人間のしるし”なのではないかと思った。信念に、理想に、愛に、翻弄されながら生きること。そう考えたとき、このもどかしい旅路にも人間らしい意味があるような気がして、私は辞書の重みを忘れていた。
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