トランプはなぜ支持されるのか？

第47代米国大統領の席に座ったのはまたしてもこの男だった。

暗殺未遂事件を乗り越えた不死身の男、ドナルド・トランプだ。

ツイッターではアメリカはもちろん、日本の左派メディアからも阿鼻叫喚の声が上がっている。名だたる有名大学を卒業し、社会人になって以降も日々自己研鑽を怠らないインテリたちは口をそろえて、下品な不動産屋のオヤジがなぜこれほどまでに支持されるのかがわからない、とつぶやいている。

中には怒りをトランプ支持者へぶつける者たちもいて、「トランプ支持者はどうしようもない低学歴ばかり」「大卒と高卒中卒の溝は埋めがたいほど広がっている」などと、学歴差別丸出しのヘイトスピーチを絶賛拡散中だ。

インテリたちはしきりにトランプ大統領はブルーカラー業界の復興などできる器にない、移民問題を騒ぎ立てアメリカを分断しているペテン師だとこき下ろしている。日本のインテリたちも「なぜトランプなのか？」と理解に苦しんでいる様子だ。

そんな人々に是非お勧めしたい本がある。それが金成氏作の『ルポ トランプ王国』だ。

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)

この本を読めば、なぜトランプがここまでアメリカの人々から愛され、熱烈な支持を受けるのか、そのすべてが理解できるだろう。筆者もトランプが泡沫候補からなぜ大統領にまで上り詰めることができたのか、その謎を解くためにこの本を手に取った。そして、トランプがなぜ勝てるのか、そのすべてを理解するに至ったのである。

実際にアメリカの錆びついた地域であるラストベルトに移住し、そこで取材した様々なアメリカ内陸部に住む人々の声をまとめ上げたこの書籍を、ぜひ左派のインテリたちにこそ読んでもらいたい。もちろんトランプを応援している人々にもトランプ現象への理解が深まるのでお勧めしたい。

ここからは、この本と続編である2冊の金成氏の書籍を読んだ筆者の感想と、トランプ現象がなぜ起きたかについて書いていこう。本を読む時間のない人向けにざっくり「なぜトランプは今回を含めて選挙に勝てたのか？」について解説していこうと思う。

トランプが前々回と今回の選挙で勝利できた大きな要因は3つだ。

まず一つ目が「民主党の誤算」だ。

トランプという存在を生み出したのは、間違いなくアメリカの分断である。ではその分断を引き起こしたのは誰なのか？断言しよう。アメリカの民主党である。

そもそも、今はトランプの熱烈な支持者となっているラストベルトのブルーカラー労働者たちは、元来民主党の熱心な支持層であった。民主党は過去は労働者の味方として、肉体労働にはげみ家族を養う、そんなアメリカの白人たちからの支持で成り立っていた政党であった。

しかし、民主党はある時を皮切りに、自身の支持者たちであったブルーカラー労働者たちを切り捨てて方針転換を行ったのだ。その決断をしたのがクリントン政権時代だ。

クリントン大統領はこれから世界経済をけん引するであろうIT業界と金融業界を推す方針転換を決め、シリコンバレーやウォール街への投資を積極的に行った。ブルーカラー労働者からIT、金融へと支持層の切り替えを行ったのだ。

それによって、工場を南米に奪われてしまった内陸部や南部の労働者たちは政治的な後ろ盾も失い、アメリカの中で孤立無援になってしまったのだ。さらに、いざ選挙が始まっても民主党の立候補者たちは、放っておいてもラストベルトあたりの州は民主党に投票するだろうとみなし、選挙演説にももろくに足を運ばなかったのである。

民主党とつながって繁栄を極めていった西海岸のITテック企業や東海岸の金融マーケットとは違い、製造業を失ったラストベルトの現状は日に日に悪化していった。鎮痛剤オピオイドによる薬物依存の蔓延などが原因で、白人労働者の寿命はアメリカ内でも最低レベルにまで低下していったのである。

そんなまさに見捨てられた地域、ラストベルトの地に降り立ったのがトランプだった。トランプは開口一番「俺がこの街に雇用を取り戻す。安く働く不法移民を退去させ、外国に奪われた工場を国内に呼び戻す。雇用さえ戻れば地価も上がる。みなが住み慣れたこの街で暮らせるよう、俺が偉大なアメリカを取り戻す！」と啖呵を切ってみせたのである。

政治家の最も重要な仕事は"人々に明るい未来を見せること"だ。日々生きることに精一杯の人々は、もうこの街はお終いだ、仕事も安全も帰ってこない、などという言葉を政治家の口からは聞きたくないのである。

こうしてトランプはラストベルトで演説を繰り返し行うことで、経済的政治的に孤立無援となっていた白人労働者たちの心を掴んで行ったのである。

ここからは2つ目の要因についてだ。それが……