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やべぇグラフの見抜き方

人間を説得するうえで有効な手段が数字で訴えることだ。そのため、多くの人々が誰かを、時には自分自身を説得したり納得させるために、様々な数字を探しながら生きている。

しかし、数字を取り扱うには論理的思考力や十分な時間を必要とする。住宅ローンの組み方、保険の入り方、金融投資や不動産投資……人生の複雑な問題について思い悩む時ほど、取り扱う数字は複雑で難解なものになっていく。様々な分野の専門家が真理を指し示すため用いる難解な数字の列は、多くの人々にとって理解することはとても難しい。

例えば政府が公開している東京都の子持ち世帯や単身世帯の世帯年収の統計データがこれだ。この数字を一見しただけでは、なかなか情報を処理して理解することは難しい。膨大な統計データを集めたとしても、生データだけではその数字の裏に隠された真実は見えてこないのだ。

https://www.e-stat.go.jp/

そんな時に用いられるものがある。それが”グラフ”だ。

グラフとは二つ以上の数量や関数の関係を図形に示したもののことであり、複雑怪奇な数字を一般庶民にも視覚的に理解できるように変換してくれる優れものだ。膨大な量のデータは、グラフに変換されることでその力を最大限発揮できるのだ。

例えばこのデータにある東京都と全国の子育て世帯所得の比較グラフを作成すると下記のようになる。

筆者作:東京と全国の子育て世帯所得分布の比較グラフ

グラフにすることで、東京都の子育て世帯がいかに全国平均に比べて所得が多いのか誰の目で見てもわかるようになったのがわかるだろう。

生データからこの事実を理解するには多くの時間が必要になる。グラフはそれらを時間をスキップし、一瞬で答えを誰の目で見てもわかりやすく示してくれるのである。

インターネットで知りたい情報を検索すれば、数学の才能に恵まれない我々凡人向けに作られたグラフが次々とヒットする。人類の進歩と共に年々複雑化する社会で、我々が様々な数字の情報を理解するために今やグラフは欠かせない。

しかし、グラフを読む際に重要なことがある。それはグラフに示された2つ以上の情報を正しく理解することだ。グラフには様々な形があり、グラフの種類によっては知識がないと正しく読み解けないものもある。

例えば下記のコロナ新規感染者数の増減を表した2つのグラフを見て欲しい。

https://www.asahi.com/articles/ASN6H36HXN67UHBI015.html

左のグラフでは新規感染者が爆発した米国ほどではないにせよ、日本でも凄まじい数の感染者が発生していると感じるのではないだろうか?

しかし次に右のグラフを見て欲しい。このグラフを見れば日本は米国に比べればほぼ0に等しい感染者数だと感じるだろう。

実はこの2つのグラフ、実は全く同じ生データから作られている。違いは左のグラフは縦軸の目盛りが1つ増えるごとに数字が10倍になっているのに対し、右のグラフは1目盛り5000ずつ刻まれている点だ。

左のグラフは”片対数グラフ”と呼ばれるもので、2つ以上のグラフを比較する際に、一方の数字が大きすぎて比較が難しい場合に使用されるグラフだ。

右のグラフでは日本の感染者数は≒0と判断するしかできないが、左のグラフでは数十人単位での数値の変動がしっかり読み取ることが出来る。ただし、この片対数グラフに関する知識がないまま左のグラフを読んでしまうと、米国と日本の新規感染者の数を誤って比較してしまうのである。

このように、グラフは正しい知識とをもとに読まなければ、誤った認識を抱いてしまうリスクがある。パッと見て判断するの危険なのだ。

しかし、それ以上にグラフを読むうえで注意しなければならないことがある。それが”グラフ作成者の意図”である。

世の中に溢れる無限のグラフには、必ず作者が存在する。流行りのAIで出力されたグラフにも、AIにデータを読み込ませている誰かが存在する。グラフには必ず作成者の何らかの目的、感情が込められているのである。

例えばSNSやブログなどで度々目にする『日本の3組に1組は離婚している!』という意見の根拠として用いられる下記のグラフにがある。

下に小さな文字で書かれた特殊離婚率の説明

このグラフを見れば、あたかも結婚した夫婦も36.8%が離婚していると感じてしまうかもしれない。しかしそれは誤りだ。

このグラフの下に罹れた小さな文字を読んで欲しい。このグラフで示されている数字は”特殊離婚率”と名付けられたものであり、その算出方法は【年間離婚件数÷年間婚姻件数】と書かれている。つまり、このグラフは結婚した夫婦の離婚するパーセンテージではないのだ。

現在の日本のような急激な少子化による結婚適齢期人口の急激な減少タームにおいては、年間の婚姻件数はどんどん低下するのに対し、中高年の人口ボリュームゾーンの離婚件数はしばらく減らない。そのため、特殊離婚率は過剰に高く算出されるのである。

この特殊離婚率をもと日本で結婚する夫婦の36.8%は離婚する!という情報を発信するのは不誠実と言わざるを得ない。

無防備な状態でグラフを読めば、グラフ作者が何らかの黒い目論見を持っていた場合、まんまとハメられて思考や思想を誘導されてしまう。例え同じ生データから作られたグラフだったとしても、そこに作者の意図が加わればグラフは無限に変化するのである。

ここからは簡単な例を出して、グラフ作成者の意図によって、1つの同じデータからどのような形の違うグラフたちが産み出されるのかを解説していこう。

まずは下記のグラフを見て欲しい。

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