腸はささやく。
内視鏡検査は続く。
あれだけこの大腸検査室を席巻していた陽気な狂気はその後、ゆるゆると濃度を薄くしてゆき程なく凪る。
カメラは進む。ぐんぐん進む。
突如、午前中に爆飲した腸内洗浄薬の残党が牙をむく!
腸はささやく
……だしてもいいですか?
えっ!(要↓BGM on!)
とんでもない便意が踊りながらやってきた!
体をスィンスィンくねらせてボブスりながらやってくる。動摩擦力は驚きの0。
俺の…俺のエントリープラグが…強制射出しちまう…!!
止まれ止まれ止まれ止まれ…トマッテヨーーー!
必死必死、必死にこらえる。下腹部の全筋肉に力を込める!
弛緩していた腹直筋がバキバキゴリゴリ音を立てて整列し、大臀筋がメリメリと引き締まり俺のお菊さんがカメラのコードを切断するが如くキュキュウと締め上げる!
ださせはせん、ださせはせんぞおおお!
「だしてください。」
「えっ」
この孤高な戦い、医師にはすぐバレた。
「わかるん…ですか?」
「わかります。カメラで吸うんで大丈夫ですよ。」
「では、遠慮なく……そのカメラとやらで啜るがよい!」
システム開放、迎撃開始。
反転術式、便意滅殺!!
(恥ずかしいという負の力)✕(便意という存在自体が負の力)=(便意を打ち消し腸内秩序を回復する力)
仄暗い検査室、私の両目がギンと光る。…そして私は人を超える。
獣のように、フルパワーで吹き出す。
コォォォオオ…バシュッバシュッ、コォォオオオ……カメラは吸い込む。
おぉ…なにこのイケナイことシテル感…ぬふふ、こいこい便意ども。うぬら根こそぎカメラの餌食よ!さぁさカメラ殿、じゃんじゃんヤッちゃってくださいな。
カメラは進む、ぐんぐん進む。鈍痛、便意、放出吸引。
腸内モニターを眺めていると程なくアイツが顔を出す。
ピッツアだ。
腸壁にシールのようにペラペラになって、へばりついている。
その面積はさほど広くはないが、その部位は観察することはできない。
小さな過失は大きな枷となって検査の妨げとなった。
洗浄薬で流しきれなかったピザの残骸が腸内に、こまごまと点在している。
カメラ殿、あやつめらを吸っちゃってください 心のなかで呟く。
先生はピッツァを吸い取ろうと試みたが
「うん、やっぱり取れませんね…へばり付いてますね。」
そう言ってカメラを進めていった。
高輝度のLEDライトに照らされたピッツァは腸壁にもたれながらグラサン、アロハにビーチパラソル、トロピカルジュースをデスラーの如く掲げてる。
いまいましい奴め……まったく……わたしの腸でくつろぎおって…………ふふっ…ういやつじゃ…。
検査が終わる。
「すんどめさん、ノーポリープでフィニッシュです。」
「ありがとうございました。」
「とりあえず、大腸に異常は見られませんでした。気になるようなら次はとりあえず整形外科に行くといいですよ。」
かんごしは「長い一日でしたね〜可笑しかったですね〜あんな笑ったの久しぶりですよ。」
いいえ、あなたはきっとしょっちゅうああですよ。まわりも巻き添えにしてw
私こそ、とっても楽しかったです。
先生、そしてお昼休みを潰して確認地獄をしてくださった、お笑い魔空間看護師さん、本当にありがとうございました。
〜エピローグ〜
お家に帰ると、妻が開口一番
「ポリープあった?」
テーブルには保険約款が…秒で察し震える。
「…ノ…ノーポリープでフィニッシュです…。」
「…聞こえないんですけど。」
「のののーぽりいぷです。ふぃにっしゅです。」
「ポリープ切って泊まってこんかい!!一日入院でなんたらかんたらナンタラカンタラじゃろがい!!!!!!」
ふふ…病院に帰りた〜い(涙)
〈了〉