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パジャマと夏の駐車場。
大腸内視鏡検査当日。
早朝の駐車場はオレンジ色で清々しい。ガラ空きで停め放題。
陽が高くなるとそうはいかない。様々な色の車がびつしり敷きつまる。
車の数だけ憂いがある。
受付を済ませ、内視鏡検査準備室へ。
この道すがら、入院になった場合のパジャマを忘れたことに気づく。
ポリープがあったらその場で切除して入院になるのでパジャマがいる。
前日、
嬉しそうに買ったパジャマ。
はずかしそうに袋から顔を出すパジャマ。
はじめましてとあいさつするパジャマ。
見知らぬ場所に緊張してどこか落ち着きのないパジャマ。
迷子になるパジャマ。
おどけてグラサンをかけるパジャマ。
ピザを齧りながら嬉しそうにファッションショーをするパジャマ。
値札をふり乱してランウェイ、ウェイウェイ馬鹿騒ぎしたパジャマ。
所狭しと宙を舞うパジャマ。
ポケットになんか入れたパジャマ。
笑顔で写真に写るパジャマ。
財布からなんか抜き取るパジャマ。
はしゃぎ疲れてグッスリ眠るパジャマ。
今はソファーの上に置きっぱなしのパジャマ。
パジャマを取りに帰ったらもう駐車場は満タンで停められないかもしれない…どうする…。
ソワソワしながら検査準備室に入室する。
看護師さんから検査の流れを聞く。
ひと通り説明を受けた後、パジャマを忘れたので取りに帰っても大丈夫か確認をとる。
往復30分。一か八か取りに帰ることにした。
駐車場には車をあっちこっちと誘導するおっちゃんがいる。
もう駐車場は9割9分埋まっていた。
「忘れ物取りに帰るんですけど30分後停めれますか?」
「あんた…この駐車場を今から……悪いこっちゃ言わねえ、考え直しな。」
「おっちゃん、昨日一緒に踊ったパジャマが俺を待ってるんです。」
「アタマ大丈夫?見てもらったほうがいいよ。」
一斉に甲高く蝉の声。駐車場に打ち響く。
「おっちゃん…今日はケツだけに…じゃあいってきます‼︎」
「もう駐車できねーかもしれんぞーい。」
タイヤを鳴らして駐車場から駆け抜ける。
駐車場のおっちゃんが眩しそうに空を見上げるー。
「ったく………熱い夏になりそうじゃわい」
家に着くなり、パジャマをもぎるように毟り取り、車のドアを叩くように閉めて復路を急ぐ。
駐車場はどうだ!びっしりじゃん…くっ…やはり…あっ、おっちゃん!
「おっちゃん!」
「こっちじゃ!」
おっちゃんが誘導灯をぶんぶんフリフリ車をいざなう。お前の車は必ず停める。ほっそい足で必死に駆ける。空いてる場所へと必死に駆ける。
めっちゃうれしい。なんだこの絆、めっちゃうれしい。
「おっちゃん!」
「よかったな、早くいってきな。アタマも診てもらえよ!」
「ケツだけッス。ありがとうございました!」
30分遅れて私の検査は始まった。
つづく。