雨に飛び込む。
日曜日、大雨。
甲高く、やたら優しい鉄琴の音が鳴り響く。
iPhoneには、黄色い三角、黒いエクスクラメーション。
大雨特別警報。
前日からの宿雨が勢いを増す。
10トンダンプが荷台を上げて、屋根に小砂利を延々流し続けているのではないのかと疑いたくなるような雨音。そんな雨音が耳を支配する。
『羅生門』の雨はこんなイメージ。
だが、はっきりと言わせてもらう。
大雨だろうが鬼雨だろうが我ら父娘には喜雨も喜雨!!『羅生門』のように暗くはないのだ!!
「おとう!」「うむっ!!」
土砂降りの雨に飛び込んだ。
娘は青白いかさを広げる。開いた傘を、反対方向にバサっとめくりあげる。
青白い傘は、一瞬で朝顔になった。
朝顔を手に娘は「雨を集める」そう言って庭にでる。
勢いよく朝顔に雨が集まる。傘に撥じかれる雨水は玉のように丸くなり、どんどんくっつき溶けたスズのように傘を走る。まさにメタルスライム。
時間もそう経っていないのに娘の細うででは支えきれなくなるほど、溜まる。
バランスを崩して、メタルスライムが傘からこぼれる。娘は笑う。
くりかえし雨を集める娘は、「さっきより多くない!?」「うわっこぼれた」笑いながらこっちを見る。
雨を集める。集めながら、歌い出す。そうかと思うと今度は最近みたお笑い芸人『モシモシ』のコントに出てきた飼育員のシークイーンのモノマネをする
傘をさしながら、豪雨のなか、情感深く甲高い声で
『ホオォォォオオオーーーォ!!』
と叫ぶさまは、海が恋しいシークイーンそのものだった。
そして、傘を離す。
こんなもの、ぽーい!
なんの躊躇いもなく雨に飛び込む。
笑いながら雨にうたれる娘。
視界の全てが雨。椿の垣根、家々の屋根、打たれぬものは、どこにもない。しぶく雨が白く輝く。雨の日がこんなにも光にあふれているとは。そんなことを思う。
庭しぶく雨の中、雨は激しさをより一層強くする。
そんな中、雨しぶきの向こうに娘。
雨の中、歌い出す。
雨の中、踊り出す。
ずっと笑っている。
私は、かみしめる。このあまりにも素敵な光景を。
この瞬間の心のときめきを私は一生忘れない。
いい濡れっぷり。痛快すぎる!!
見ているだけでは満足できない!
この後、わたしも雨に飛び込む。
あなたが雨と踊るから、雨がこんなに美しい。