決戦、前夜。
きのう、宵の口。仕事から上がってきたら娘がホットケーキを作っていた。
その様子を横目で追いながらも、私は受験生の通う中学校に用事があったので、ダッシュでシャワーを浴びて靴を履く。
おとうさん、おそとでる?メイプルシロップ買ってきてほしいんだけどいい?
むすめよ、庭でグリズリーが爪をたてて立ち上がっていようが魔王軍が家を包囲していてようが、玄関の鎌を片手に買いに行くに決まってるじゃないですか!
メイプル買ってくっから家で待っててください。
むすめよ…ホットケーキ、おとうさんのぶん……あるといいなぁ…
車を運転しながらマヌケ面を存分に歪ませて熱唱する宵口の信号待ち。指はチャカチャカとバチがわりになりハンドルを打つ。
この日受験生は学校を休んだ。
翌日は受験日だというのに、面接の最終練習もあるのに休んで追い込みをかけたいと言った。
いいよ、好きなように戦いなよ。
そう言って学校に朝連絡をいれた。担任の先生は
そうですか、わかりました。今日、渡したいものがあったのですが…取りにこられますか?
とおっしゃったので取りに行くことになった。
そして担任の先生から渡された物、それは
クラスのみんなからの受験応援メッセージがびっしり貼ってある寄せ書きだった。
一人一人、自分の言葉で書いてある。肉筆で丁寧に。ネタに走ってる子もいるがご愛嬌。メッセージを書いているみんなも、人知れず、必死にあがきながら頑張っている事を想像して胸が熱くなる。
帰り道にメイプルシロップを買って帰る。
受験生からLINEの通知。
おとうさん、コンパス買ってきて。
…えっ………作図問題、今までどうしてたんですか…あぁ、紐と針とえんぴつですねw
怖くなってシャーペン、シャーペンの芯と消しゴム、定規もレジに持って行く。
家に帰ると、ムスメが焼き上がったホットケーキの前で待っていた。
あした受験日でしょ。だから。
娘はそう言ってメイプルの封を切り、ホットケーキにひと回し。
にっこりしながら私をみる。
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受験生は今日、決戦の火蓋をきる。
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見せてやれ、底力。