夏に紅葉?拡大する「ナラ枯れ」を食い止める3つの方法
最近、秋でもないのに近所の山が紅葉していませんか。
実は、それ、違います。広葉樹が枯れているのです。
ここ数年で、関東周辺では一気に広葉樹が赤く枯れる被害が増えています。
あなたの身近な公園や緑地も例外ではありません。
「ナラ枯れ」と呼ばれる樹木の枯損について、解説していきます。
拡大するブナ科樹木の枯損「ナラ枯れ」
今、全国でナラ枯れ被害が拡大しています。
紅葉の時期でもないのに、葉が赤茶けてしまっているのは、「ナラ枯れ」という伝染病が原因です。
このナラ枯れの被害を受けている樹木が、非常に増えています。
トップの写真は、丘陵地の頂上から撮影したものです。
赤茶けた部分は、ナラ枯れの被害を受けた樹木です。
枯れてしまった樹木は、樹幹が倒れたり、枝が落ちるなどの危険性があります。
そのため、公園やハイキング道のような利用者が多い場所では、施設管理者等が案内板を掲示したり危険な木を表示するなど、利用者に周知をしているかと思います。
関東地方でも、2020年頃から目立つようになってきた気がします。
原因はカシノナガキクイムシ
ナラ枯れの正式名称は、ブナ科樹木萎凋病(ぶなかじゅもくいちょうびょう)といいます。
これは、
ナラ類を枯らす病原菌「ナラ菌」
この病原菌を運ぶ昆虫「カシノナガキクイムシ」
によって生じる樹木の伝染病といわれています。
カシノナガキクイムシは、繁殖のためにナラ類に飛来し、樹木の内部に穿孔するときにナラ菌を感染させます。これに感染した樹木は、急速に枯れてしまいます。
全国でのナラ枯れ被害の現状
ナラ枯れは、近年目立って拡大していますが、昔からあったものと考えます。
特に、日本海側を中心に拡大していた被害量は、2010年度をピークに減少傾向にありました。
しかし、2018年度を底に、最近は増加傾向にあります。
2020年ごろから関東地方でも被害が急速に拡大しています。
ナラ枯れの仕組み
さて、どうしてナラ枯れは、急拡大していくのでしょうか。
その原因の一つは、カシノナガキクイムシの繁殖形態にあると考えます。
カシノナガキクイムシは、以下の手順で繁殖を行います。
カシノナガキクイムシの雄は、ナラ類の樹木に飛来・穿孔し、集合フェロモンを出す。
他の雌雄が大量にその樹木に集まり、産卵する。
このとき、樹木にナラ菌を感染させるとともに、幼虫のえさとなる酵母を樹木内に持ち込む。
カシノナガキクイムシの幼虫は、樹木の中で酵母を食べて成長する。
翌年の6~9月には、新たにナラ類を探して飛び立つ。
この繁殖の際に、樹木がナラ菌に感染すると、通水障害となり、夏でも赤く枯れてしまいます。
ナラ枯れの被害を受けた樹木は、次のような特徴があります。
カシノナガキクイムシは、一気に多くの個体が集まり繁殖するため、一度カシノナガキクイムシの被害にあうと、周辺の森林でナラ枯れが急拡大してしまいます。
ナラ枯れ被害対策マニュアルには、次のような記述もあります。
ナラ枯れを防ぐには
被害を防ぐポイントは、ナラ枯れ被害が小さいうちの初期対応にあります。
まずは、被害状況を調査し、把握することから始めます。
同マニュアルでは、次表のように被害区分を整理しています。
ナラ枯れの防除は、この「微害地」を重点に、適切な防除方法を選択することが重要です。中・激害地での防除は困難と言われています。
具体的な防除手法は次のようになります。
①被害把握と対策実施体制の構築
まずは、ナラ枯れの特徴を抑え、被害状況を把握する必要があります。
対策の実施は、以下を総合的に進めていく必要があるため、都道府県単位など広域の関係者で対策の実施体制を作ることが重要です。
被害の監視・予測
被害の防除
被害を受けにくい森林の整備
ナラ枯れ被害材の移動制限・利用促進 等
②予防
予防方法は、主に以下の3点があります。
すべて人力での作業となるため、時間も費用も多くかかります。
殺菌剤の樹幹注入
粘着剤・殺虫剤の塗布
ビニールシート被覆
③駆除
駆除は、ナラ枯れ被害を受けて枯死した樹木を対象に行います。
翌年の成虫が羽化脱出する時期までに処理をする必要があります。
具体的には、以下の4つの方法があります。
立木くん蒸
伐倒くん蒸
破砕・焼却
誘因捕殺
まとめと新しい森林づくり
ナラ枯れ対策は、初期対応が被害抑制に有効です。
身近な場所で、ナラ枯れと思われる状況を発見したら、最寄りの市町村や施設管理者に報告しましょう。
ここまで被害の防除方法を書いてきましたが、そもそも若齢の樹木ではナラ枯れの被害を受けにくいという調査結果があります。
近年は、薪炭材や榾木としての利用が減少し、全国的にコナラ類の高齢化が進行しています。これは、キクイムシにとって絶好の繁殖場となっているでしょう。
今後考えるべきは、今被害を受けたコナラ林を、今後どのような森林に復旧するかです。
現在、都市近郊のコナラ林の多くは、里山公園や保存緑地のように、伐採・更新圧が比較的低い利用形態をとっています。一方で、この利用形態では、樹木は大きくなるばかりで、ナラ枯れ被害を受けた場合のリスクが大きいと言えます。
緑地を中長期的に維持する観点から、樹齢や樹種が多様な森林づくりをしていくことが重要です。
おまけ:ナラ枯れとカエンタケ
ナラ枯れ被害木の根元に、真っ赤なきのこが生えていることがあります。
これは、カエンタケと呼ばれる毒キノコです。
カエンタケは、初夏から秋にかけて、枯れたナラ類の根元から発生します。
触れただけで、皮膚がかぶれるうえに、少量でも食べると死に至ります。
発見した場合は、公園管理者やハイキング道の管理者等に報告しましょう。
ちなみに、間違えやすいきのことして、ベニナギナタタケというものもあります。ご注意を。